第3話 底辺

砂埃が舞い上がる中、俊介達はモヒカン頭の連中と対峙していた。

周囲の空気は張り詰め、足元には砂が舞い散り、緊張感に包まれていた。

「ニコ、この物資を奪われたら今度こそ俺たちの村は終わってしまう。でも勝てねぇよ…おしまいだ…」と、坊主頭の小さな少年が言った。そのやり取りにモヒカンは鼻で笑う。

相手は確実にこちらを見下している。俊介はこの感覚に覚えがあった。

あれは、俺が高校1年生のときのことだ。

俊介の高校は公立高校だった。彼はシニアリーグ時代から頭角を現していたため、野球名門の私立高校からスカウトが来ていたが、それをすべて蹴って地元の高校に進学した。なんとなくポリシーに合わなかったからだ。

地元の高校は野球の名門ではないが、そこまで弱いわけでもない。毎年1、2回ぐらい勝ち上がり、有名私立高校に負けるのを繰り返しているようなレベルだ。

俊介はそこで1年からレギュラーを張っていた。

その年で俊介達は地区大会2回戦を勝ち上がり、有名私立校との試合になった。

相手にはシニアリーグ時代に見知った顔ぶれもいた。

そいつらと試合前に軽く話をしたが、完全にこちらのことなど眼中にないような感じだった。

試合が始まると、さらに俊介は絶句した。相手はほとんど控え選手が出ていたのだ。

その試合で俊介はホームランを打ったが、打たれた投手は「こんなところで点を取られてどうする!」と叱咤され、ベンチ裏で泣き崩れていたのを見て、少し複雑な気持ちになった。

試合は、公立校にしては善戦したほうだが、最終的に大差で負けた。

なぜ負けたか?それは俺の力が足りなかったからだ。

モヒカンたちとあの時の相手チームは、こちらを舐め切っている感覚が似ていたのだ。

「やってやろうじゃねぇか、このやろう!!」

俊介はブチ切れながら言った。その瞬間、モヒカン達と目が合う。

「俊介!!君は魔法が使えるのか!?」ハッと気づいたようにニコが尋ねる。

「使えねぇよ!そんなもん!」俊介は答えた。

「えっ…使えないの…?なんか使えそうな雰囲気出てたのに…」

「安心しろ。俺は高校通算60本以上のホームランを打ったドラ注のスラッガーだ。大船に乗ったつもりでいるといい」

俊介はビッグマウスだった。

「高校ってなんだよ…?ドラ注…?」ニコは困惑した。

「へっ、魔法も使えねぇのかよ。こんな雑魚相手に9回もやってられるか。3回7点コールドでいいな、俺達が勝ったらそこの物資は全部こっちのもんだ。」

「………負けたら?」

俊介が問うと、モヒカンはゲヒャゲヒャと笑いながら

「負けたら野球道具くれてやるよ、負けるなんて神に誓ってありえねーけどな」

俊介は知らなかったが、この世界で野球道具をかけるとは、武士にとって刀をかけるようなものである。

じゃんけんで勝った俊介は先行を選択した。実戦を知らないため、少しでも魔法の実態を知りたかったからだ。

「せいれーつ、礼っ!!」

「しゃーーっっす!」

金髪で鼻にピアスを空け、首を傾げクチャクチャとガムを噛んでいる審判のコールで試合は始まった。

「見た目はアレだが、ここはちゃんとやるんだな・・・」

俊介は感心していた。

試合が始まり、モヒカンたちは一斉に守備位置に動き出した。

1番バッターはニコ、2番は俺だ。あとは俺も名前を知らない奴らが連ねている。

奴らに聞くと、ニコは野球がうまい方らしい。弱いが少し魔法も使えると聞いた。

ニコは俺に一抹の期待をかけて4番に置こうとしたが、俺は断った。

「2番強打者論」というのをご存じだろうか。詳しく解説するとセイバーメトリクス研究について話す必要があるため、割愛するが、簡単に言うと2番に強打者を置くのが一番得点効率が高いという研究結果だ。

俺はセイバーメトリクス信者だった。公立高校時代も監督にセイバーの有効性について主張しなぜか嫌われた。

俺はニコ達にセイバーの有効性について語ったが、ニコにすらかわいそうな人を見るような目で見られた。おかしい…絶対に正しいのに…。

最終的にニコは「わかったよ…2番な…」と、何か諭すように言って、俺は2番になった。

相手のマウンドで軽くストレッチをしているのはモヒカンだ。彼の握っている球はすでに薄緑色に輝いている。

バッターボックスの前でニコが素振りをしている。ニコのバットは目を凝らすと、少し光っているように感じた。

「これが…魔法か…」

それに対して、俺の手には何も光を放っていない木製バットがある。力を込めてみても光らなかった。

ニコがバッターボックスに立つ。

「プレイボール」クチャクチャと金髪の審判がコールをした。

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異世界スラッガー、魔球を打つ男 あきみず @akimizun

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