第2話 荒野のチーム
俊介が目を開けると、そこはまるで別の世界だった。風は冷たく、砂埃が舞い上がる広大な荒野が広がっている。足元の土は硬く、荒れた土地に植物はほとんど見当たらない。空はどこまでも澄んでおり、雲ひとつない青空が広がっていた。
「ここは…一体、どこだ?」
転生前のやり取りを思い出しながら、俊介は周囲を見渡した。目の前には、何もない荒野が広がっているだけで、どこに行けばよいのか全く分からなかった。突然、遠くから何かの音が聞こえてきた。
「おい、ちょっと待てよ!どこに行くんだ!」
「バカ!走れ!あいつらに追いつかれるぞ!」
声が近づいてくると、数人の人影が見えてきた。その動きは、何かから逃げているようだった。
俊介はその動きに興味を持ち、様子を見ながら足を止めた。
やがて、その一行が目の前に現れた。そこには、よれよれのユニフォームを着た男たちが、必死に走っている。みんな顔色が悪く、全力で走っているものの、足はそこまで速くない。
その中で、一人だけが目立った。背が高く、やや痩せ型の少年が、こちらのほうに走っていた。
「こっちだ!みんな、早くこっちへ!」その少年が叫ぶと、他のメンバーも必死に走り込んできた。
俊介がその集団を見ていると、その少年が気づき、驚きの表情を浮かべた。
「な、なんだあんたは?ここで何してるんだ?」背の高い少年が警戒しながら声をかけてきた。
「俺の名前は加藤俊介。…ここは……どこだ?」俊介は答える。
「ん?」少年は眉をひそめたが、答えてくれた。
「ここはセントラル地方南西の狭間だ。お前がどんな事情でここに来たか知らないが、早く逃げたほうがいいぞ。」
俊介はその少年の言葉に驚きながらも、状況を理解しようと必死だった。「セントラル地方」とは、異世界で自分が転生した場所らしいが、どんな場所かは全くわからない。とりあえず、目の前の危険な状況から脱出しなければならないと感じた。
「な、なんでこんなところに?追われているのか?」俊介が追走しながら尋ねると、背の高い少年は走りながら答えてくれた。
「そうだ。この辺は、普通のやつが住んでるような場所じゃない。ここを支配しているのは、『デザートバッドソルジャーズ』って呼ばれる連中だ。あいつらは、野球の技術を使って俺たちからモノを奪っていくんだ。」
俊介はその言葉に驚愕した。「野球で!?」と反応したが、すぐにその意味を理解する。魔法が使えるこの世界では、野球の技術がただのスポーツの枠を超えて、戦いの手段として使われているのだ。
「そうだ、野球だ。あいつらはガラの悪い連中ばかりで、野球で略奪してくるんだ。あいつらのバットやボールは、魔法で強化されてて、俺たちじゃ勝負にならない。だから、俺たちみたいな弱小チームはいつも奪われるだけなんだ。」少年は声をひそめ、目を鋭くしながら続けた。
「…魔法で強化されたバット?」俊介はその言葉に疑問を抱いた。だが、目の前の状況からして、どうやらこの世界では魔法があらゆるものに応用されていることが理解できる。
そのとき、遠くから足音が近づいてきた。少年たちの集団が必死に走り続ける中、俊介もその足を早めた。
「来た!」背の高い少年が叫ぶと、他のメンバーも全力で走り出した。
遠くから、砂埃を巻き上げながらやって来るのは、一団の男たちだった。
モヒカン頭の男を筆頭に、こちらに向かって一直線に走ってくる。
その手には、大きな金属製のバットや、奇妙な形をした道具を持っており、周囲に不穏なオーラを漂わせていた。
「やべぇ、奴らだ…!」背の高い少年は息を荒げ、顔をこわばらせて言った。「あいつら、魔球を使ってくる。逃げても無駄だよ…!」
俊介はその一瞬で理解した。この連中が、ただの野球好きなわけではなく、野球を道具として使って自分たちの力を誇示し、弱者からモノを奪っている連中だということを。このチームの走力ではすぐに追いつかれるだろう。
「ニコく~ん♡、野球しようよ~!」
器用にバットを舐めながら全力疾走でこちらへ向かってくるモヒカンたち。
モヒカンからニコと呼ばれた背が高くやや痩せ型の少年は「もうやるしかないか…」と足を止めた。
俊介はその瞬間、背の高い少年の「ニコ」と呼ばれる少年が足を止めるのを見て、すぐに状況を察した。逃げることはもはや不可能だ。モヒカン頭の男たちは、その凶悪な雰囲気を漂わせながら、野球道具を持ち、ニコたちに近づいてきていた。
「俊介、お前、野球はできるか?」俊介にニコが呼びかける。「お前・・・!?」条件反射のように俊介が聞き返すと。
「…君は、野球はできるかい?」ニコが言い直した。
その言葉に俊介は頷く。
「もちろんだ。俺でよければ力になろう。」
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