異世界スラッガー、魔球を打つ男
あきみず
第1話 デッドボールの先に
加藤俊介(かとう しゅんすけ)は、高校野球の主砲であり、打撃に関しては誰にも負けない自信を持っていた。打率は常に4割以上をキープし、ホームランも高校通算60本以上放つスラッガー。チームのエースであり、4番打者でもある彼は、地区大会の準決勝戦を迎えていた。
強豪校相手に0対0という膠着状態が続き、試合の終盤、ついに彼の打席が回ってきた。
「お前が決めろ!! 加藤!!」
チームメイトの熱い掛け声に俊介は眉をひそめた。チームメイトやスタンドからの声が響く中、俊介はバッターボックスに立つ。試合を決める一打を放つべく、両手に力を込めた。
相手投手は、150km/hを超える速球で知られる本格右腕。ドラフトでも注目されている。俊介は警戒されており、前打席すべてフォアボールだった。俊介は若干苛立ちながらも、打つために集中し、バットを構えた。
相手投手は俊介の威圧感を感じながら、滝のように流れる汗の中、セットポジションから投球を行った。
「えっ、なんだこの球……」
俊介は気づいたときにはすでに遅かった。即座に回避行動をとったが、若干前足を崩しながら放たれた投球はすっぽ抜けてナチュラルシュートをし、俊介の頭部に直撃した。
「……あれ?」俊介はボールが自分の顔面に当たる感触を覚え、頭が真っ白になるのを感じた。
その瞬間、何もかもが白く霞んでいった。担架を呼ぶ声が聞こえた。しかし、周りの音も次第に遠くなり、視界が暗転。自分が倒れる感覚があった。
俊介が意識を失いかけたその瞬間、周囲が白く輝き、まるで全てが崩れ去るような感覚を覚えた。視界が暗転する中、僕はゆっくりと身体が浮き上がるのを感じた。空間が歪み、何かに吸い込まれるように、俊介は一瞬で異次元のような場所に転送されていった。
「――おい。」
声が、どこからともなく聞こえる。
俊介は、ふわりと宙を漂いながら目を開けた。目の前には、明るい光に包まれた不思議な空間が広がっている。その空間には、無数の星々や煌めく光が漂い、宙に浮かんだ巨大な玉座の上に、人が座っていた。
「お前さん、少しばかり手違いがあったようじゃな。」
その言葉を発した存在――それは、ただのキャンディをくれるおじいさんのような見た目であったが、強豪校のエース以上の存在感を持つその存在を、俊介は神だと理解した。
「お前・・・!?」
条件反射のように俊介が聞き返すと、神は咳払いをしながら
「お主、少しばかり手違いがあったようじゃな。」と言い直した。
「僕は……死んだのか?」
「そうじゃ。」神はうなずきながら答えた。「じゃが、心配しなくていい。お主はただ、この世界での役目を果たすために転生しただけじゃよ。」
「役目……?」
「お主のような者が、この世界に来る理由は一つしかない。」神が軽く手をかざすと、俊介は周囲の空間が変化していくのを目の当たりにした。光の柱が現れ、その中に野球ボールが浮かび上がった。それは、輝く魔法のようなエネルギーを放ち、球そのものが超常的な力を秘めているのがわかる。
「これは……」
「これは、この世界で使われる『魔球』じゃ。お主が元々使っていた野球の技術に、こちらの世界の魔法の力を込めることで、全く新しい力を得ることができる。」神は穏やかな口調で言った。「お主がこの世界に転生した理由、それは――お主にこの世界の王、そして最強のスラッガーとして君臨してもらうためじゃ。」
俊介はその言葉を聞いて、しばらく言葉が出なかった。転生した先が異世界であり、そこで野球を使って王を目指すという話は意味がわからなかったが、それでも一つの問いが浮かんだ。
「なぜ……野球?」
当然の疑問を投げかけた。神は優雅に微笑みながら
「この世界では、野球が最も偉大な競技で、最高の地位を誇るスポーツじゃ。お主の元の世界も同じじゃろう?そこに理由などないんじゃよ。」と答えた。
「お主が目指すべきは、全国野球大会の王者。そこに君臨する者が、この世界を支配する権利を持つ。今の王者を倒し、頂点に立つことが、お主の新たな使命となるじゃろう。」
「でも、僕はただの――」
「お主はただの高校生じゃない。野球に対する情熱、スラッガーとしての魂、そして魔法を使いこなす素質。それを見込まれてここに来たんじゃ。しかもまだ若い。若手で素質のあるやつは貴重なんじゃ。その力で世界を支配する伝説の選手達を倒し、王になってくれ。」
俊介はその言葉を聞いて、しばらく黙っていた。彼は間違いなく野球を愛し、全力でプレーしてきた。しかし、異世界で魔法を使って野球をするなんて、あまりにも現実離れしている。しかし、神の言葉には一種の力強さと野球に対する愛が感じられ、何か決定的なものを感じた。
「わかった……」
「よろしい。」神はにっこりと笑う。「さあ、お主の運命の扉は開かれた。お主の力を活かせる場所は、そこにあるぞ。」
その言葉と共に、俊介は再び光に包まれ、まるで夢の中に吸い込まれるような感覚に襲われた。次の瞬間、目を開けると、彼は異世界の荒野に立っていた。
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