ことわざと異文化交流

白火取

第1話 つま先の意味

「なあ、爪に火を灯すってどう言う意味なんだ?」

隣の席の留学生サラマンダーが聞いてきた。


この世界には色々な種族がいる。

体格も違えば文化も違う。

幸い変身魔法で多少カバーできるので、

ビジネスシーンでは人族を共通語にすることが多く、

こうやって学生のうちから交換留学なんかもたまにある。


「サラマンダー的には子供でも出来る簡単なことって意味なんだけどさ、なんか爪に火を灯す生活って苦労話っぽくてさ」

「あ、うん、人間的には火は出せないから全然違うよ。確か、燃やすものを買うお金もなくて切った爪捨てないで燃料にしちゃう的な、だいぶ切羽詰まった感じだった気がする」

「え、爪?燃えんの?」

「うん、サラマンダーと違って耐熱性はないから」


「髪とかじゃダメなのか?」

「髪はカツラ屋さんに売れるから、燃やさない」

「へぇ…ウロコみたいなもんか」


ことわざは人間の体の仕組みを知らないと意味不明なものが多く、

サラマンダー的には覚えるのに苦労するそうだ。


「そういえば、写真撮る時につま先揃えてって言われたけどさー。サラマンダー的にはやんのかゴルァだからちょっとビビった」

「あるあるだよねー。いつでも飛びかかれるぞって、人間は飛びかからないから分かんない感覚。人間からの留学生がいつも手足揃えて喧嘩腰ってヤツの逆バージョンだね。」


「そもそも人間の爪が不思議すぎるんだよ。」

「まあまあ、爪紅塗ったげようか?」

「は?何て?」

「ネイルカラー。マニキュア。」

「紅って言うかそれ水色じゃん。と言うか校則違反じゃん。」

「まあまあ、サラマンダーは塗らないの?」

「どっちかって言うと爪に色をつけるんじゃなくて焔の色を綺麗にする感じかな」

「あー炎色反応。化学で習ったかも。それで鉱石粉かぁ。」

「そそ。やっぱ焔が綺麗だとカッコいいからね。」


焔の色が虹色に変わるミックス粉が高校生に爆ウケするちょっと前の話。

留学生サラマンダーの親は新製品開発部ラボの人だった。


「後ろ足の薬指のつま先だけ色を変えるといいよ」

と帰る時にもらった新商品ペディキュアは、

また会う日まで大事に取っておく。





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