第2話 ブレイクスルー

「こんなことなら、おとなしくくたばるんだった……あんなセレンちゃん、知りたくなかったし……なんかショックー」


 コンコンとドアがノックされ、オレンジ色の夕陽が射し込むあたしの部屋にやってきたのは、赤紫色のドレスを着た令嬢バイオレットだ。

 涼やかな目元を生かしたナチュラルメイクに、赤毛の艶やかなストレートロングヘアー。

 あたしは知っている。この人は、とても頭がいい。だって、ゲームじゃそういう設定だったもん。だからきっと、困ってるあたしにいい知恵を貸してくれるに違いない。


「バイオレット、実はさー」

「お金なら返さないわよ。あれはもらったものなんだからね」

「はい? なんの話?」


 おいおい、いきなり金の話かよ。ほんとに現実ってやつはゲームと大違いだ。


「プリンスのケチがあのアクセサリーに金出してくれないからいけないのよ。請求するなら、あのドケチにしてよね」

「(さ、才色兼備の大人色気令嬢がぁ)い、いや、今日来てもらったのは、金を返せっていう話じゃなくてさ」

「あらそうなの! じゃあ今度はあのNEWデザインのヒールを買おうかしら!」

「ヒール? それさあ、結局ドレスで隠れるから外から見えないじゃん。見えないもんに金をかけるなんてさ、すっごい無駄じゃない?」

「何言ってんのよ、マーガレット。あなた、ぜんっぜんお洒落がわかってないわね。いい? NEWデザインの品物を、いち早く持ってるってとこが大事なの! それに、ちらっと見えるポイントに気を使うのは、レディーの嗜みよ」


 はあ、レディーねぇ。あーたの持論はどうでもいいけど、それは自分の金で買ってくれよ。いやいや、そうじゃなくて。あたしはダミアンとのことをどうにかしないと。


「で、相談ってなによ?」

「あ、あのさ、ダミアンとセレンちゃん、どうやったらくっつくかなって」

「ダミアン? あいつ、放置しといたら勝手にそうなるんじゃないの?」


 ああそうだ、バイオレットはこないだのこと知らないんだった。


「いや実は状況が変わってさ、かくかくしかじかで……」

「へぇ、あのダミアンが実はドM!? プリンスと一緒じゃない!」

「プリンスって、地味で真面目……で、ドMなの?」

「あいつは地味で真面目に見えるだけの、ただのドケチな女好きのクズよ」


 そ、そんな! ダミアンと人気を二分する人気キャラがぁあ!


「バイオレットはそれでもプリンスが好き……」

「んなわきゃないでしょ。私だって好きに男と遊んでるわよ。あいつの知らないところで」


 バ、バイオレットの賢い妻像がぁあ……


「ねぇ、その男たちに貢いでもらえば? さっき話してたNEWデザインのヒールをさ」

「まあ、それもいいかもね。そうそう、さっきの話だけどさ、確かセレンにだってかなり歳上のジジイ婚約者がいたわよね? あれ、そういやこないだ急病で倒れたんだっけ?」

「そう、薄幸の美少女は婚約者にまで先立たれる予定……ハッ、まさか……」


 なんか、嫌な予感がする。


「たいした家柄じゃなかったから、消されちゃったんじゃない? セレンの婚約者」

「ううっ、セレンちゃん!」

「まあでも、あんたは自分の婚約者であるダミアンとセレンをくっつけたいんでしょ? なら簡単よ。あんたがダミアンに嫌われればいいだけ。ドMのダミアンだって、男にだらしない女は嫌いでしょ?」


 な、なるほど!


「わかった、あたしが男漁りすればいいのね!」

「そうよ。ほらこれ、私が愛用してる高級ホストクラブのカードよ。徹底的に秘密厳守してくれるから便利よー。で、いつ行く? 初めてだと心細いだろうから、私が一緒に行ってあげるわ」

「ほんとに!? ありがとう、バイオレット!」

「いいわよ、あんたと私の仲じゃない。ねぇ、きれいね……そのダイヤモンドとサファイアのリング」

「……良かったらあげるよ。このデザイン、ちょうど飽きてきたとこだし」


 これは確か、マーガレットが過保護ママからもらった品物だったような……でもまあ、他にもたくさん持ってたはずだから、一個くらいいいよね。あたし、あんまり自分を着飾るの、好きじゃないしさ。

 さ、善は急げだぁ!

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