ーー古の大戦ーー

 ーーあまねく星が光りし時、聖戦が始まりを告げる。

 |終末の笛(ホルムギャルド)が鳴り響き|世界の破滅(ラグナロク)へと繋がってゆく。

 神々の出陣。その先鋒を任されたのは

 ーー雷神 トール。

 一切の無駄なく冷徹に振り下ろされる雷槌にヴァレナが死を覚悟した瞬間、少女は覚醒する。

 眠れる森の姫にして

 ーー水の神 セウォルツ。

 彼女の涙が地に染まり山々の木々がトールを襲う。

 ーー撤退......

 戦場に一時の安寧が訪れた。


 ーー眠りの森にてーー


 『......セウォルツ、今度こそ君を守ると誓ったのに...... 守られるなんて、不甲斐ないよ......』


 ヴァレナの見つめる先には、セウォルツ。

 

 大分無理したのだろう...... ずっと眠ったままだ......。


 (......このままじゃ駄目だ!もっと強くならなきゃ......!)


 『......我々が押されたのも無理はありません そこまで思い詰める事もありませんよ、ヴァレナ』


 振り向いた先にはヘイムダルがいた。


 『......トールは天界でも群を抜いた実力者です 特に純粋な破壊力では右に出る者がいないでしょう』

 『彼の持つ強みは単純かつ純粋な破壊性にあります 戦闘中、彼は殆ど思考していませんでした』

 『つまり純粋にぶつかり合いをすると分が悪いのはコチラです』


 『でも...... ボクは父さんや母さんも守れなかった...... フレイストの呪いにも気づいてあげられなかった...... セウォルツも......』


 悲痛な顔でうずくまるヴァレナ......。


 『セウォルツさんは無意識で貴方を守るために覚醒したのでしょう...... トールは水の神と称していました』

 『多分...... セウォルツさんも貴方と一緒に戦いたかったんだと思います 貴方に充分、彼女は守られてきましたから......』


 (おっと...... いけませんね...... まだこの秘密は話すタイミングではありませんか......)


 ヘイムダルは回想する。


 ーー|古の大戦(ラグナロク)を......


 ーー|古の大戦(ラグナロク)の少し前ーー


 運命の七連星は北斗七星をその身に宿す。

 神の指針であり人々を導く存在であった。

 いつからであろう。

 神と人が遠い存在となったのは。


 神々は人を作り出し統治した。

 ーーとはいえ神も不器用であり、人といってもあまりにも大きい人か、あまりにも小さい人しか作れなかった。

 ーー巨人と小人の誕生である。


 神なんて人よりちょっと出来てちょっと完璧な存在。

 以前はそうであったのに......


 神殺樹から少年は産まれる。

 名前はセウォルツ。

 巨人と小人の王国から少女は産まれる。

 名前はヴァレナ。


 いつからであろう。

 少女が少年に、少年が少女に生まれ変わったのはーー


 ヘルヘイムの知識と記憶を継承したダルヘイム。

 ヘイムダルとなっても、ここまでしか知り得ない。

 運命の呪いは強く強く結びついては離れない。

 ーー永劫の呪い。


 それを解き明かす為にも彼は聖戦を起こさねばならなかった。

 

 (運命の七連星を集め、聖戦に勝って真実を知る!!!)


 『ヘイムダルさん......』


 どこか遠い目をしたヘイムダルを見て、ヴァレナは思う。


 (あの人にも愛すべき人がいたって聞いた...... きっと辛いはずなのに、フォローまでしてくれるなんて......)


 『......こうしちゃいられない』


 ヴァレナは眠りの森を走り出す。


 (もっともっと強くならなきゃ......!!!)


 『ヴァレナ......!!?』


 唐突に走り出すヴァレナを見て、ヘイムダルは驚く。


『坊ちゃま......!!! お待ちを......!!!』

『フレイスト...... 彼に付いてあげなさい!必ず引き戻すよう!!!』


 フレイストは瞬時にヴァレナを追いかけるも、森にヴァレナは隠れてしまう。


 (し...... しまった...... ヴァレナを励ますつもりが、余計に背負わせてしまいました...... やはり運命の話は彼らにはまだ ......重い)


 運命の七連星の三大星には運命の存在を伝えてはいけない。

 ヘルヘイムの記憶にあるものだ......。

 これは運命の存在を知りながら聖戦を起こさないよう、彼女自身で努めていたもの......。


 セウォルツとヴァレナの逢いたい気持ちが二人を繋げ、状況が変わり聖戦が起きた。

 だがそれだけではなかったのだろう。


 ヴァレナ、セウォルツはまだ幼くて危ういし、世界の観測者ーーそう、ダルヘイムに伝えてしまうと聖戦の引き金になりかねないからだ。


 『幼かったのは私もだな......』


 ヘイムダルは吐息を漏らした。


 ーー眠れる少女 セウォルツーー


 セウォルツ、愛しい娘、起きなさい。

 トールを...... トールを打ち倒すのです......。


 眠れる少女に樹は静かに語りかける。

 その樹の名はーー神殺樹。

 かつて世界を喰らう者の成れの果て。


 人間界を取り巻く樹としてセウォルツをそっと見守っては支える存在。

 その樹が朽ちる時、セウォルツは死に、セウォルツが死ぬ時、その樹は朽ちる。


 永劫の復讐を誓って、かの樹は今日も聳え立つ。


 ーーヴァレナは愛する者を守るために旅立ち、眠れる姫はやがてその目を覚ますだろう。

 愛する者は側にいない。

 彼女の冒険はまた始まるーー。

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