ーー廻業のテンパランスーー

 ーー運命の七連星、それは神の基軸であり人を導く者。

 |邪赤街道(デイビル・ロード)を進むヴァレナ。

 母なる神の最期の言葉が、何故か頭の片隅を離れない。

 時を同じくして、永氷皇土の宮殿に雷神トールが到来する。

 執事フレイストに告げられたのは、ヴァレナ討伐令だった。

 業星の運命は如何に――


 『あれは敗戦して間もない頃じゃった......』

 氷の中で眠る王を見つめながら、フレイストは呟いた。


 『初代巨人と小人の王...... 気がつけばヴァレナ坊を支える役目...... 儂は走馬灯を見ているのだと思った...... でもそれは違った』


 幸せな時間だけがただ流れ、全てを忘れさせた。

 しかしその時、全てが崩壊するのだ。


 ーー遥か前の記憶の果てでーー


 『お前は只そこで突っ立って見てるだけで良い』


 その言葉に支配され、誓った王を守れず、目の前で坊ちゃまが惨殺される。


 『これが貴様の業の呪いぞ これで運命の七連星が揃う事もない』


 絶望に支配され、業は己の身を焼き尽くし、心を壊す。

 涙が全て枯れる頃、またあの幸せがやってきた。


 『王......!!? 王なのでありますな!!?』


 目の前に微笑みながら立つその王。


 『父と母によく仕えてくれたと聞いておる 私も宜しく頼んではくれまいか? 良き待遇を保証するぞ』


 よく見ると初代に似た別人だった――それは二代目の王。

 (どうなっておるのじゃ...... 巨人と小人の国は永氷皇土に変えられ、王の血筋は確かに絶たれたはず......)


 困惑するフレイストに、希望と絶望が訪れる。


 『フレイスト!!! 私の子どもが生まれたぞ!!! 名はヴァレナだ!!! 私はお主を信頼しておる! この子の教育係はお主だ!!! 引き受けてはくれぬか?』


 (そんな......!!? まさか......!!?)


 目の前の子を見た瞬間、フレイストは確信した。

 

 ありし日のヴァレナ ――希望の子

 しかし、絶望は再び訪れる あの光景だ――


 『お前は只そこで突っ立って見てるだけで良い』


 繰り返されるその言葉......。 


 (これが業の呪いの真なる力......!!! 何故こうも救われないのに希望を感じてしまうのじゃ......)


 永遠に出会いと別れを繰り返すフレイスト。


 『愛しき故郷が永氷に変わる時には、必ず何かと理由をつけては坊ちゃまを宮殿の外へお連れしたというのに......』


 また失わなければならないのか......。

 フレイストは静かに宮殿を発つ。


 (坊ちゃまは度々セウォルツに会いたいと言っては聞かなかった...... 運命の七連星...... 何であるのかは忘れてしまったが、それと関連しているのじゃろうか......)


 ーー天界の最果てでーー


 『皆の者!!! あの方の御成であるぞ!!! 平伏せよ!!!』


 ここは神々の中核 ーーヴァルハラ

 

 数多の神々が平伏する中、あの方は静かに降り立つ。


 『トールよ...... 事は順調であろうな?』


 雷神トールは頭を垂れ、静かに告げる。


 『はっ...... 執事には確かにその旨伝えました...... 間もなく討たれるかと......』


 天を見上げるトール。


 その頂にいる神は、名を呼ぶことすら許されぬ存在 ――主神、オーディーン


 ーー邪赤街道を少し抜けたその先でヴァレナは眠る。

 刻一刻と近づく宿命。

 運命の衝突が、今まさに始まろうとしていた――

 

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