ーー真実の愛ーー

 ーー運命の七連星、それは神の基軸であり人を導く者。

 弓神と誘惑神との戦闘の余波で奇行を繰り返す|神堕ち人(カミオチビト)、混乱し疲弊するダルヘイムにヘルヘイムが休みを促し、代わりに神堕ち人を見守る。

 一方その頃、ヴァレナはセウォルツを想い|迷針樹林(メイシンジュリン)を爆進、踏破した。

 彼の眼前に広がるのは赤ちゃんが道を行き交う

 ーー|邪赤街道(ベイビル・ロード)。

 彼の知らない光景がそこにはあった。

 

 「一体どうなっているんだ......」


 すれ違う人は大抵赤ちゃん。ヴァレナは困惑する。


 混乱しながら歩いていると、目の前でお爺さんらしき人が突っ立っていた。ヴァレナは声をかけてみる。


 「......あの、此処は一体?」


 お爺さんはこちらに気づいたようだ。

 よく見ると仙人のような顔をしている。


 「ここかね? ここは邪悪な者のなれの果て、|邪赤街道(ベイビル・ロード) お前さんも気をつけるといい...... 気を緩めるとああなる」


 お爺さんの眺めた先には大勢の赤ちゃんが群がっていた。


 「金に女に地位に名誉...... 殺意も危険だ...... 赤ちゃんになると本能的に一番求める対象に群がってしまう」


 (なるほど、邪念が少しでもあるとダメなんだな......)


 ヴァレナはお爺さんに感謝を伝え、その場を後にした。


 (こんな所があったなんて...... 聞いたことがない)


 そう言えば昔、一度だけ父と母に連れられて人間達の街を見に行ったことがあったっけ......。


 ヴァレナはふと思い出す。

 

 迷針樹林を抜けた先に繋がるのはこの街だけ。

 昔は普通に色んな人達が幸せそうに暮らしていたはず......。


 「誰がこんな真似をした!!?」


 ヴァレナは激昂し、明確に殺意を沸かせる。

 

 誰かは知らないが、必ず代償は払ってもらう......

 ボクの想い出をこれ以上穢すな!!!


 殺意に反応し、ヴァレナは赤ちゃんになってしまう。


 本能的に一番求める対象に群がる習性があるのなら、それは会うに決まってる。


 殺意の対象...... 向かう先に居たのは・・・・・・


 ーー母なる神ハレトア |慈愛の揺籠(サンクチュアリ)ーー


 産みを司る神

 穢れた邪念を祓うため、慈愛を持って対象を赤ちゃんとしてやり直させる

 全ては愛故、僅かな邪念すらも許さぬ態度で母なる神は今日も征く


 (ふざけるな!!!)


 ヴァレナはその身が変わろうと激昂していた。


 「うふ♡ これはまた可愛い赤ちゃんの登場ね♡ 待っていたわよ、ヴァレナの坊や♡」


 ハレトアは恍惚しながらヴァレナを可愛がる。


 「貴方みたいに芯が通っている子は中々いないもの♡ 昔はもっと女の子っぽい性格してたのにこんなに気が強くなっちゃって♡」


 ヴァレナは全てを見透かされているようで気恥ずかしくなった。

 

 何故過去を知っているのか分からない......。


 暫くあやされているうちに、ヴァレナはどうでもよくなってしまいそうになる。

 

 それだけ心安らかで気持ちいい空間は今までなかったのだから......。


 もうダメか......。


  諦めそうになるその瞬間、ヴァレナの脳裏にまたあの悲劇が映し出された。


 雷鳴に氷塊...... 父さん...... 母さん......

 トール...... オーディーン...... 絶対に許さない。


 ヴァレナの憎しみの炎は増幅し、辺りを包み始める。


 (燃やせ...... 燃やせ...... 心のゆくままに......)


 「......あ ......あ ......熱い!!! 熱っぃぃぃ!!!!?」


 ハレトアは苦悶の顔を浮かべて悶絶する。


 (あぁ...... 街が燃えてしまう...... ダメだ......!! 止めろ!!! 怒りの全てを凝縮するんだ!!!!!)


 血の涙を浮かべ全身の怒りを一点に集中するヴァレナ。


 体が赤ちゃんだから何だ!!!

 アイツには真実の愛なんてない!!!

 真実の愛は己の善悪で語るものじゃないし、堕落させるものじゃないのだから!!!


 強き願いと怒りが重なり合い、少年は真に愛する者に辿り着くため力を奮う。


 |爆炎衝(ブラスト・フレイム・インパクト)!!!


 ヴァレナの持つ破壊衝動を一点へと集中した技

 地獄の業火は衝撃を生み、衝撃すらも指向性を持って唯一点だけを焼き尽くす


 「うっ...... ぐぅぅぅ......」


 ハレトアは母なる神故に強力な再生能力も併せ持つが、再生専門ではないため再生が追いつかず崩れゆく。


 「ふぐっ...... ふふふっ...... 真...... 実の愛...... は貴方にも...... ない...... わ♡...... 貴方は...... 既に...... 騙されてるもの...... 後は...... あの方が......」


 意味深に告げ消え去るハレトア。


 ヴァレナが旅立つ頃には、邪赤街道は普通の幸せに溢れた人々が暮らす街へと戻っていた。


 全てを眺め終え、不敵に笑うお爺さん。


 「あの方...... あの方、アイツも偉くなったもんだ⭐︎

少年に助けられるなんて癪だけど...... 枷がなくなってラッキーだね⭐︎ 次は誰で遊んでやろうかなぁ⭐︎」


 ーー忽然と姿を消す謎の人物。

 混沌を誘う者を不遇にもこの世に解き放つ。

 この世の終わりを知ることはもう誰にも出来ないのだろう......。

 

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