第3話
ここは学園都市だから、警備の人も種族は違えど立派な顔立ちをした学生たちだ。
集まっていた見物人たちが彼等を前に通すと、中心にいた4人の中のシルバード公子の顔を見つけて事の成り行きを聞いていた。
令息の言い分も聞いているようだったけど、周りの人たちも声を上げたことで令息は連行されることになり、騒動は終結しようとしていた。
警備隊に取り囲まれた令息は最後まで自身の主張を繰り返していて、何が悪いのか分かっている様子ではなかった。
その様子をずっと見ていた私は、誰よりも先に気づくことができた。
騒ぐの諦めた令息が大人しくしたかと思ったら、ぶつぶつ何かを呟き始めていて、魔法を使おうとしていたのだ。
そして、その標的が誰になるのかも──。
振り向くと公子は兎人族に手を差し伸べているところで、令息の行動に気づく様子がなかった。
視線を戻すと令息は暴れだし、警備隊の腕を解くと振り返る。
「
魔法陣が令息の足元に浮き出て、手を前にかざすと炎の槍が公子たちを襲った。
集まっていた観衆から悲鳴が上がる。
私も驚いていたけれど、咄嗟にお父さんから聞かされていた魔法を言葉にしていた。
「
息を吐き出すような掠れた声は、悲鳴に紛れて誰にもバレることなく、魔法は発動した。
魔法の素となる魔力を霧散させる魔法は『
端からみたら失敗したように見えたのだろう。
「驚いたわ」
「まだ魔法を上手く扱えないのね。実力不足で良かったわ」
そんな話しをするなか、不意にリトバーム公子がこっちを見つめた。
私は気づかない振りをして隣りにいた人と話しをする。
(もしかして、バレた? そこまで痕跡は残ってないと思うのに……)
内心すごく焦せったけど、シルバード公子に話しかけられたみたいで特に近寄ってくる様子ななかった。
ホッと溜め息をつくと、これ以上この場にいるのが嫌で学院へと向かった。
暴れていた令息の方を見ると掻き消えた魔法に遠い目をして膝から崩れ落ちた。
「驚かせやがって。大人しくしろ!」
「な、なんで……。今のは成功していただろ……」
今度こそ気力をなくしたようで、令息はどこか茫然とした様子で警備隊に連れて行かれていた。
♢♢♢
レリック学園へ到着した私は、先生や生徒の案内のもと審査室へ向かった。
説明された通りに水晶に手をかざして魔力を込めると魔力の強さが数値として現れた。
それから明日のクラス会場が書かれた紙をもらって宿へと帰ることになる。
翌朝、手のひら程度の魔法を唱えながら身支度をすると、再び学院に訪れた。
昨日とは比べものにならないくらい、門の所に子供たちが集まっていて行列を作っている。
その行列は私が昨日来ていた魔力審査室だったらしい。予め受けていた私は別口で校内に入り、試験会場となっている教室へ向かった。
先に来ていた人たちは数人いたけれど平民出身の質素な服装をした人たちの方が多くて、緊張した面持ちで席に座っていた。
私も座ると、決められた時間には書類選考で受かった子供全員が席についたみたいで廊下は静かになっていた。
しばらくして先生がそれぞれの教室に入り、筆記試験が開始され、午後には解放された。
それから2日間で練武場での実技試験をして、三日間に渡る入試が全て終わった。
試験が終わると、学園都市は祭りのように昼夜灯りが灯されて、色んなお店も夜更けまで営業していた。
私は村の人たちにお土産を買い込むのに中央広場に行ていた。
そこはとても楽しそうで、夜はどこかの地方の踊りで在校生徒や入試を受けに来た子供たちが混ざって盛り上がっていた。
──それから滞在7日目の朝。
結果発表が出される日に学園へ行くと、門前に大きな掲示板が出ていて、張り紙には試験番号がずらりと書かれていた。
ドキドキしながら、書かれた番号を目で追いかけていると、やっと自分の番号を見つけて興奮する。
何度も確かめて実感が湧いてくると、自然と笑みと涙が溢れてきて止まらなかった。
(やった! あった! これでレリック学園に入学出来る!)
合格して手を上げたり、飛び跳ねて身体で喜びを表す子供や、肩を落として涙をながしながら静かに帰って行く子供に大きく分かれる。
しばらくすると合格者は再び教室に集められた。
そこで入学式までの流れや当日の話しを聞き、制服を配布されたあとに、入試生として都市に滞在していた子供たちは去って行った。
私は夜間掛けて馬車を乗り継ぎ、朝日とともに村に戻って来ると、荷馬車の中で村外れの囲い柵に立つお父さんの姿を見つけた。
「お父さん!」
荷馬車が止まる前に貨物から飛び出すと、お父さんに駆け寄って勢い良く抱きついた。
「エマ……! 無事に帰って来れて良かった」
お父さんも抱き返してくれて、私は腕の中で温もりを感じた。
お父さんとここまで長く離れて過ごすことは今までなかったなと、その時になって改めて気づいた。
「都市から出る前に書いた手紙は届いた?」
「あぁ。だから道中で何かもないかすごく心配してたんだ」
「あはは!」
お父さんの身体から少し離れると、早く伝えたくて仕方がなかった。
けれど、嬉しそうにしている様子からお父さんは既に結果がどうなったのか察しられたのだろう。
「家に帰ってから結果を聞こう。大好物の料理を並べあるんだ」
「えぇ!? 気が早いよ!」
「何を言ってる。わたしの娘なんだから結果なんて決まってるだろう」
そう言うことを自慢げに話すお父さんに私は笑って、着い馬車から荷物を貰うとお土産の品から一つ選んでお礼をしてから家に帰った。
慣れ親しんだ家の中に入るとテーブルには豪勢な料理が並べられていて、いい匂いが充満していた。
そんな部屋だったからか、お腹が鳴ってお父さんが可笑しそうにしていた。
「さぁ、教えてくれ。試験はどうだった?」
「合格したよ!」
そう言って私は、鞄から証明書を取り出してお父さんに吉報を伝えた。
♢♢♢
──1ヶ月後。
都市から離れる前に先生から言われた話しで、少し疑っていたことが本当にやって来た。
それは王宮から使者だ。合格者の私を迎えに本当に村までやって来たのだ。
おかげで出発する日の村では大勢が集まって来て、私を送り出しに村長や子供たちまでもが顔を出していた。
少ないけれど重たい荷物を従者が馬車に乗せてくれて、お父さんに「いってきます」と別れを告げた。
そして北方領土の王立レリック学院へと、馬車は勢い良く走り出した。
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