第4話
門扉が開くと、集まっていた新入生は広いホールへと集められた。
ステージ近くの席に座ってしばらく待っていると、入学式が始まる。
開会式では校長先生が前に出て、来賓である国王陛下や王妃、学園都市創立関係の閣下たちが紹介された。
アッシュハリム国随一の学院だけあって、仰々しい人たちが2階の来賓席に集められているようだ。
そんな中、迎えた新入生代表の挨拶では思っても見なかった名前が呼ばれた。
「新入生代表、レオ・ラルド・アッシュハリム様」
名前に国名であるアッシュハリムがつくのは王族しかいない。
つまり──。
「第二王子様よ。同級生になるだなんて驚きだわ」
(あの人がこの国の王子様なんだ)
初めて見る一国の王子に、私はつい顔を見つめてしまう。
エルフと似た金色の髪に、宝石眼と言われるキラキラと輝く緑色の瞳をした王子はとてもハキハキしていて、大人びて見えた。
「今日この良き日に、ご来場の方々に見守っていただき、教師、在校生に迎えられ、レリック学院に入学できること大変嬉しく思います──」
(まぁ……、私が関わることはないか)
学院と言っても王子様なら日頃から世話役と護衛に囲まれいるだろう。
身分を分けるものはないとは規制されているが、とは言ってもだ、流石に王族となれば貴族としか関わらないだろう。
半分ぼぅとしながら挨拶を聞いていると、式は順調に進捗していき、生徒全員で一緒にする初めての食事会になった。
一斉に食堂へ向かい、用意されていた豪勢な食事を食べ終えると、今度は寮分けの儀式に入り生徒たちはざわざわと周囲の人たちとおしゃべりをはじめた。
一人ずつ名前を呼ばれて前に出る。
さっきまで教員の人たちが食事で使っていたテーブルは綺麗に片付けられていて、その上には水晶が置かれていた。
魔力審査の時と似た用な水晶だったけど、形が少し違う気がする。
先生の話しによると、事前に合格者の情報が水晶には仕込まれていて、生徒の魔力で判別して各寮のパーソナルカラーに光るようになっているらしい。
きらびやかだった食堂の明かりが幾つか落とされて、辺りが暗くなると一人ずつ生徒が呼ばれる。
最初に呼ばれた生徒は、式で新入生代表として挨拶をしていた第ニ王子で、水晶に手を翳して魔力を込めたのたらしい水晶は赤色に輝いた。
赤色はソール寮のカラーだ。形は太陽を表している。
他にも金色はルーナ寮で、形は月を。
緑色はクルメン寮で、形は山を。
青色はマレ寮で、形は海を表してしている。
一つの寮にはだいたい25人ほどの生徒が振り分けられて、寮も教室も共にして1年の間学院生活を送ると聞いている。
「──次。エマさん」
「は、はい……!」
名前を呼ばれて返事をしながら立ち上がると前へ出た。
「では水晶に魔力を流して」
「はい」
どの寮に分けられるのかドキドキしながら手を翳すと、水晶は金色に強く輝いて瞬く間に消えた。
「ルーナ寮よ。おめでとう」
「ありがとうございます」
席に戻る前にルーナ寮を担当する先生からバッチを貰い、胸元に付けるように言われた。
席について三日月と星が描かれたバッチを付けると、私は盛大な溜め息をついた。
前にでから気づいたのだけれど、人前に立って、大勢に注目されながら何かをするのは始めだった。
ドッと精神的にくるものがあって、ぐったりと疲れていると、しばらくして知っている顔ぶれが前に出ていることに気づく。
それは入試の時に見かけたハルト・リトバーム公子と、セイヤ・シルバード公子だ。
二人が続けて前に出ると、女子生徒が騒いでいた。
そしてどの寮に振り分けられるのか、固唾を呑んで見守っている。
リトバーム公子が手を翳すと水晶が金色に輝いた。
まさか一緒のルーナ寮になるとは思いもしなかったけど、どんな人なのか近くで知れることに嬉しくなる。
騒動で見かけから、誰かを助けるために動けるリトバーム公子をカッコイイと思っていたから。
シルバード公子は緑色でクルメン寮に分けられた。
違う寮になっても二人は笑いあっていて、離れることになっても仲が良さそうだった。
他にも一緒に馬車に乗った快活な男の子や、いじめられていた兎人族の男の子もいて、青色のパーソナルカラーのマレ寮へと当てられたらしい。
新入生全員の寮分けが終わると、寮ごとに校内案内をすることになり、最終的に教室に集められて教材を配布したあと、生徒は寮へ移動することになった。
校舎からしばらく歩いた先にある1年生用のルーナ寮は西方の洋館にあって、1階が共用スペースになっているらしい。
暖炉のある部屋はとても広くて、24人の生徒が思い思いの椅子やソファに座った。
すると、腰に剣を掃いた長身の女の子が立ち上がって声を上げる。
「みんな聞いてくれ。既に自由時間になっているが、今日から共に過ごす仲間だ。私は仲良くなるためにも、先に名前を聞いておきたくてな。それで、折角みんなが集まっているんだ。自己紹介をしないか?」
そう話すと隣りにいたショートヘアの女子がお茶を淹れている手を一度止めて手を上げる。
「私は賛成します」
二人の意見に暖炉の近くにいたリトバーム公子も「俺も構わないぞ」と頷く。
3人は貴族なのか、周りの生徒はそれに乗って「賛成です」と呟いていた。
大半の生徒が賛同したことで、立っていたが女騎士の子が先に紹介した。
「では、私からしよう。マリカ・リソットだ。この学院に入学したのは魔法と剣術を覚えて、卒業後には騎士団に入るつもだ。至らない部分もあると思うがよろしく頼む」
綺麗に一礼したマリカは長い紙を後ろで一つに結っていて、真っ直ぐ伸びた姿勢はもう既に、騎士のように精錬された雰囲気を漂わせていた。
マリカが座ると、次に立ち上がったのはお茶を淹れていたショートヘアの子だ。
マリカにお茶を差し出してからハキハキした口調で名前を言う。
「サラ・レッフェルです。将来はリソット家に仕えることです」
淡々と紹介を終えるとスッと着席して、今度はマリカの髪を梳かし始めた。
今度は誰がするのかみんなが視線を送り合うと、見かねたハルトが立ち上がり視線を集めた。
「知っていると思うが、俺はハルト・リトバームだ。外聞を広げるよう父から言われて学院を受験したが、入学した以上は学科関係なく知識を深めたいと思ってる。そしてこれからは、定期試験も、寮別対抗試験も積極的に1位を狙いたい。みんなも優秀な生徒の一人として選ばた以上は、他の寮に遅れを取らないように気をつけてくれ」
その言葉は実に貴族らしい物言いだった。
高貴な身分で常に先頭に立っているようなハルトだからこその言葉だろう。
みんなは重々しく頷いていた。
自信たっぷりのハルトの自己紹介の後、続けて誰がいくかで周りは戸惑っていた。
それは私も同じで、手を上げようか迷ってしまう。
すると、「シノ」とハルトが隣りの黒髪の男の子に声をかけた。
内気そうな男の子は名前を呼ばれたことに驚きながらハルトを見る。
その視線にハルトは応えた。
「時計回りで良いだろ」
「あ、うん……。分かった」
おどおどしつつも立ち上がった黒髪の男子学生は、向けられていた大勢の視線に気づくと身体を震わせて青ざめてしまった。
それをハルトが慰めて、なんとか言葉を紡ぎだす。
「し、しし……、シノ・コーキル、です……」
それだけ言うと限界だったのか椅子に座って縮こってしまう。
震えているシノにこれ以上はダメだと思ったのか、ハルトは後ろにいた男に自己紹介を始めるように視線を送った。
それから時計回りで半数が自己紹介を終えると私の番が来て立ち上がる。
「私の名前はエマと言います。学院には魔法を学ぶためと、働くために来ました。将来は魔塔に入って魔法の研究をしたいと思っています。よろしくお願いします」
そう続けて頭を下げると、私は席についた。
少し緊張したけれど、回ってくるまでに用意していた言葉をちゃんと言えたことで安堵の息がもれる。
その後も残っていた10人が名前や学院でやりたいことを発表して、マリカがもう一度立ち上がった。
「ここに集まったみんなが今日から1年間共に過ごしていく仲間だ。対抗試験ではチームワークを試されることもあるだろう。その時は助け合いながら壁を乗り越えられるよう頑張ろう!」
そう言って締めくったマリカは、時間をとってくれたことに笑顔で礼を言って、最後に「解散!」と声を上げた。
その号令のおかげで寮メイトは各自好きなように行動し、居間に残ったのはマリカとサラに、数人の生徒たちだけになった。
私は3階に用意された部屋に行って、届いていた荷物を片付けると1階の書斎室へと向かった。
そこには学院都市の働き先が書かれた張り紙があり、私は一つ一つ眺めていく。
洋服をつくる仕事に、カフェの店員。他にも、街の掃除員や、お祭りで使う道具を作る仕事なんかもあって興味が注がれたが、あまりピンッとくる求人はなかった。
しばらくうろうろしていると、隅の方にあった一つの求人表に目が留まった。
裏山の薬草採取や鉱石発掘の仕事に私は立ち止まる。
「──これ良さそう」
私は後ろにある申請書にその求人表の内容を書いていき、明日の放課後に寮監督に提出しようと決めた。
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