五章 勝利の代償
「サーリャ…頼む、生きて…」
僕が震える声で叫ぶ。
サーリャはその言葉に反応し、一瞬だけ意識を取り戻し、血を吐き出すように口を離した。
サーリャは目を見開き、呆然とした。
自分が何をしているのか、まるで理解できなかった。
「ごめん…」
サーリャは声にならない声で呟いた。
僕と目線を外す。
どうしようもない気持ちで、ただ目の前にいる僕に何も言えず、ただひたすら謝ることしかしなかった…。
しかし、体が勝手に動いてしまう。
戦いの中で、血を飲むことが必要だと体が命じていた。
「キミ…の血…」
サーリャは声を漏らし、目の前にいる僕を欲するような、何か暴ないものを感じ取った。
再び理性を失ったサーリャは、僕に迫り、我を忘れてその血をさらに飲み続ける。
僕の血を求めて狂おしいまでに飲み続けた。
その姿を見て、僕は次第に力を失っていく。
やがて意識が遠のくと、僕は完全に倒れ込んだ。
サーリャが完全に理性を失い、あなたの血を貪り続けているその瞬間、空気は一変した。
彼女の目はもはや、冷静なものではなく、どこか血に飢えた狂気を宿していた。
彼女の力が暴走し、男もその様子に恐れをなして一歩引く。
サーリャは男に向かって血に染まった力を振るい始める。
その瞬間、戦いの流れが一変した。
男がサーリャの隙を突いて襲いかかろうとしたその時、彼女の力が暴走し、敵の動きを止めた。
あっという間に、男は倒れ、戦いは終息を迎える。
サーリャの目の前は血のように赤く染まっていた。
荒れ狂う心拍と、全身を駆け巡る衝動。
その衝動が自分自身のものではないと、どこか冷静な部分が理解していたが、それを止める術がなかった。
戦いの余韻が、理性の鎖を断ち切ったまま彼女を飲み込んでいた。
「…っ!」
サーリャは突然、目の前に倒れ込んだあなたの姿に気づく。
凶暴な本能が徐々に後退し、あなたの血の匂いが鮮明に意識に刻まれると同時に、それが現実であることを突きつけられた。
サーリャは頭を振り、震える手で自分の顔を押さえた。
あなたの体を傷つけてしまった罪悪感と、本能を抑えきれない自分への嫌悪。
すべてが胸を締め付ける。
その瞬間、彼女の視界がクリアになった。
凶暴な衝動が霧のように薄れ、代わりにあなたの穏やかな顔と、その体を覆う無数の傷が目に飛び込んできた。
「私……なんてことを……」
サーリャは崩れ落ちるようにその場に膝をつき、あなたの体を抱きしめた。
自分の手に付いた血の跡が、何よりも彼女を打ちのめす。
彼女の理性は戻った。
しかし、サーリャの心は、その代償があまりにも大きかった。
サーリャは震える腕であなたの体を抱きしめ、蘇る遠い過去の記憶。
サーリャの目から涙が溢れ出し、止めどなく流れていく。
あなたが命を賭けて自分を助けたその瞬間から、これまでの日々が一本の糸で繋がるように脳裏を駆け巡る。
あなたが自分にどれだけの希望をくれたのか、その存在がどれほど大きかったのか、サーリャは胸が締め付けられる思いで気づいた。
「ごめん……ごめんね……」
サーリャはあなたの頬に触れ、震える声で呟く。
その頬は温かいのか冷たいのか、サーリャにはもう分からなかった。
ただ、彼女はあなたを抱きしめる力を強め、決して離さないと誓うようにその体にしがみついた。
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