四章 理性の崩壊
戦いが続く中、サーリャは目の前に立つ敵に対し、全力で魔法を使い、肉弾戦を繰り広げていた。
「そろそろ遊びは終わりにしょうか。」
その言葉とともに、男の目がさらに赤く輝き始めた。
その姿は人間を超えた異形そのものだった。
サーリャは息を整えながら、冷静に状況を見極める。
彼女の魔力は次第に消耗してきており、このままでは長く持たないと感じていた。
その時、サーリャが僕に目を向ける。
「隠れていなさい!ここは危険よ!」
サーリャはその声で僕を物陰に隠れさせた。
男はニヤリと笑いながらサーリャに近づいた。
「守る者がいると、大変だろう?」
そう言いながら彼は闇をさらに濃くし、まるで夜そのものが襲いかかるような威圧感を放っている。
「あなたのような存在を許すわけにはいかない!」
サーリャは言葉を返し、全力で攻撃を放つ。
光の矢が何本も飛び、男の周囲に炸裂する。
しかし、そのほとんどを男は軽々とかわし、まるで猫が獲物を弄ぶかのように余裕の表情を見せた。
男は影を伸ばし、サーリャの足元を狙う。
だが彼女はそれを見切り、軽やかに後方へ飛び退いた。
次の瞬間、男の攻撃が地面をえぐり、大きな衝撃音を響かせた。
「光よ、束ねて力となれ!」
サーリャは杖を高く掲げ、輝く魔法陣を展開させる。
その中心から放たれる光の流は、男の影を押し返す勢いを持っていた。
しかし、その一撃をまともに受けたにもかかわらず、男はなおも笑みを浮かべている。
その瞬間、サーリャが一瞬の隙を突かれ、危うく致命的な攻撃を受けようとした。
「サーリャ!」
僕は我を忘れて飛び出し、サーリャの身を案じて駆け寄った。
その動きに気づいた男は、すぐさまターゲットを変えた。
僕が一瞬のうちに目を離すと、男の攻撃が迫ってきた。
「危ない!」
サーリャはその身を盾にして僕を庇った。
サーリャの体が地面に倒れると、僕は彼女の元へ駆け寄り、その目の前に立った。
「サーリャ!」
僕の声に、サーリャはかすかに目を開け、微笑んだ。
「馬鹿ね、こんなことしなくていいのよ...」
だがその言葉もすぐに消えた。
サーリャの体がどんどんと力を失い、彼女の息は浅くなっていく。
僕はその光景に、焦りと絶望が入り混じった感情を抱えていた。
僕は急いでサーリャの傷を見たが、深い傷からは血が流れ続けていた。
もはや助ける手立てはないように見えた。
その時、思わず自分の顔から流れた血がサーリャの口元に触れる。
血はゆっくりと彼女の唇に落ち、サーリャはその血を無意識に受け入れた。
その瞬間、少しずつだがサーリャの傷が塞がり始めるのを見て、血を飲むことで傷が癒えることを理解した。
「これだ……血を飲めば治るんだ」
その事実が僕の頭の中で瞬時に結びつき、何もかもが一気に明確になった。
今すぐにでも多くの血をサーリャに飲ませれば、彼女は助かる。
そう直感した僕は、ためらいもなく自らを傷つけ、血を流し続ける決意を固めた。
「サーリャ…」
僕は深く息を吸い、血を流すサーリャの体を抱きしめた。
手は震えていたが、決意を胸に抱えて自らの手首を切り裂いた。
痛みが走ったが、僕はそれを感じる暇もなく、サーリャに自分の血を飲ませようと必死で流し込んだ。
血がサーリャの口に落ちると、瞬間、サーリャの体が震え、目を見開いた。
血を口にしたことにより、サーリャは一瞬だけ理性を失う。
僕の血が身体の中に流れ込むと、サーリャの傷は速やかに癒えていった。
しかしその様子は、ただ回復しただけではなく、どこか異常な感覚を伴っていた。
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