一章 予感のささやき
透き通る青空の下、いつもと変わらぬ日常が広がっているはずだった。
その日、僕はいつものように教会を訪れた。
心地よい風が吹き、鳥のさえずりが響く中、石畳を歩む音が教会の静寂に微かに溶け込む。
「ふふふっ…やっぱり来たのね。」
サーリャは振り返ると、僕にに向けていつもの微笑みを浮かべた。
その笑顔にはどこか懐かしさと温もりがあり、僕はほっと胸をなでおろす。
その表情を見るたび、子供の頃、同じように迎えられた記憶が蘇る。
祈りの時間が終わるのを待ち、サーリャの隣で大きな鐘を眺めていた日々――その頃から彼女は変わらない。
「最近、どう?」と軽い調子で声をかけると、サーリャは肩をすくめながら応える。
「まあ、平穏そのものよ。少なくとも、表向きは。」
彼女の言葉の奥に、ほんの少しの棘のようなものを感じた僕は、さらに問いを重ねる。
「何かあったのか?」
「……あったわけじゃない。でも、最近おかしな噂を耳にするの。」
彼女は小声で続けた。そのトーンに、僕は自然と顔を曇らせる。
何か良くないことが起きているのだろうか?だが、サーリャの口調はすぐに軽やかになり、僕の不安を打ち消すように、他愛ない話を続けた。
好きな本の話、最近見た景色の話。
僕が教会の裏手にある古い庭を手入れしたときのエピソードを話すと、サーリャは少し驚きながら笑った。
「手伝ってって言ってくれればいいのに、どうして声をかけないの?」
「いや、なんか悪いかなって思って。」
「本当にあなたって不器用よね。」
その会話は、ごく自然に流れていったが、サーリャの瞳に浮かぶ微かな影は消えなかった。
「ねえ、聞いてる?」
ふとサーリャが真剣な声で問いかける。
「姿を見たって話もちらほらあるのよ。」
その言葉に、僕は少し身を乗り出した。
「最近の話?」
「ええ、つい数日前。だから、あなたには念を押しておきたいの。」
彼女の声には、どこか焦りのようなものが含まれていた。
その瞳には、心の奥底からの心配が浮かんでいた。
しかし、僕は肩をすくめて軽く笑う。
「はいはい、わかってるよ〜。」
その態度に、サーリャは少し眉をひそめた。
「本当に気をつけて。」その声は少し強い口調だったが、僕は軽く流してしまう。
「大丈夫だって。サーリャが近くにいるなら、怖いものなんてないよ。」
冗談交じりの言葉に、サーリャはため息をついた。
そのときはまだ、何も起きるはずがないと思っていた。
だが、その何気ない日常の中に潜む違和感を、あなたはまだ知らなかった。
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