最終章
トニーとジェシカの埋葬が終わって、バンドのメンバーと、その関係者達は無言だった。
一番心配されていた心中ではなかった。
もっともジェシカは先に亡くなっていたのだが。
元々トニーが赤ちゃんだった頃、難しい先天性の疾患があって二十歳まで生きられるか判らないと医師に診断されていたことを、あまりにも元気に育っていたので誤診だったかもしれないと思っていた、トニー本人にも伝えていなかった、とエリザベスが話した。
だが皆、突然のトニーの死に悲しみ、俯いて涙ぐみ誰も何も言わなかった。
もちろん各々に様々な疑問は渦巻いていた。
何故、掘り返された跡がないのに棺は空っぽだった?
何故、掘り返していないのにジェシカの遺骨はトニーと一緒だった?
トニーは家を借りる時に管理人に恋人と一緒に暮らすと言っていたという。
後日に管理人が、たまたま自転車で家の前を通りかかった時に、遠目に庭に出ていたトニーと一緒に居る金髪の女性の姿を見かけた、生きて動いていたとも証言した。
若い人達の邪魔をしては、と管理人は声をかけなかったと言う。
その金髪の女性は誰だったのか?
第三者が話し合ったところで考えたところで誰も結論を出せなかった。
結論が出てもトニーもジェシカも帰ってこない。
トニーが目を開けると辺りは真っ黒だった。
ジェシカと一緒に過ごしていて、こんな真っ黒になるまで寝ていたのかと周りを見渡しても何も見えない。
何よりも寝ていたはずなのに立っている。
足元でコロコロと何かが転がる音がして、見ると、それはトニーが長い間、大切に持っていたジェシカの魂の欠片だった。
「ジェシカ?」
トニーの声を聞くと、それはコロコロと転がってトニーから離れていった。
「待ってよ、ジェシカ。また離れるなんて、嫌だ」
トニーはジェシカの魂の欠片を追いかけた。
亡くなった者達の魂が行き先を求めてさ迷う暗闇にバラバラッと、石が散らばる音が響き渡った。
ひとりぼっちで取り残されていたエドワードは、音がした方に目を向けた。
ジェシカの魂の欠片が現れて再び粉々になっていた。だが、それほど広範囲には散らばっていない。
「ジェシカ、おかえり。何処に行っていたんだい?バラバラになって…また悲しいことがあったのかい?」
エドワードは欠片を集めながら優しく声をかけた。
「そろそろ天国に行こうよ。いつまでも悲しんでいちゃいけないよ」
集め終わった欠片に話しかけていると、遠くからコロコロと何かが転がる音が聞こえた。
転がってきたのはジェシカの魂の欠片で、それを追いかけてきたのはトニーだった。
「トニーじゃないか!」
エドワードが声をかけた。
「ああ…!お久しぶりです。エドワードさん、…レイモンドさんは?」
エドワードは微笑んで人差し指で上を指した。
「ずいぶん前に、行ったよ」
トニーは周りを見渡した。
「そうなんですね。ここは何処なんですか?真っ暗で上も下も解らない感じですね…おかしいな…俺、確かジェシカと一緒に居たのに…あ、そういえば」
と、足元に目を向けるとトニーが追いかけていたブルートパーズの欠片はコロコロとトニーの足元を転がっていたが、やがてエドワードが集めた欠片に混ざって、それはジェシカの姿に変わった。
彼女は眠っていた。
「ジェシカ!」
「ジェシカ」
トニーは駆け寄って抱き起こすと、もう一度優しく呼んだ。
ジェシカが、ゆっくり、ゆっくりと瞼を開いた。
「…トニー?私、怖い夢を…」
立ち上がって、ゆっくり見回したジェシカはエドワードに気づいた。
「エドワード!」
「久しぶりだね、ジェシカ」
エドワードは微笑んで、再会に涙ぐむジェシカの手とトニーの手を取ると二人の手を繋ぎ合わせ一歩さがった。
辺りは急に日が差したように明るくなった。
「せっかく会えたばっかりだけど、僕は先に行くから、これでお別れだ。さよなら」
言い終わった瞬間、もうエドワードの姿はなかった。
静寂。
エドワードが消えても周りは、まだ明るかった。
「エドワード…行っちゃったわ…会えたばかりなのに。それにしても明るくなったのに、何もないのね。床も見えないわ」
ジェシカの頬に涙がつたいキラキラ光りながら零れた。
「うん…」
──今、一瞬でエドワードさんが消えた。なんか解る。俺、死んじゃったんだ。ジェシカが傍にいる、ということはジェシカも…。
そうだ、ジェシカは俺の目の前で…
「トニー?」
──二人で…一緒に死んじゃったのか…。ベッドでジェシカが目の前で…なんか覚えてる。でもジェシカを一人残して死ぬよりはいいのかも。ロバートが作った曲を歌いたかったけど。
トニーは繋いでいたジェシカの手をギュッと握って微笑んだ。
「なんでもないよ。俺達も行こう」
END
ブルートパーズ2 玉櫛さつき @satuk1-tor1suk1
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