第8話 RingRing……

 朝六時を過ぎてウィルが扉をノックしても、いつも返ってくるはずの返事がなく、五分待っても扉は開かなかった。

「……サルサさん?」

 不安そうな声色で部屋に向かって呼びかけても全く返事は無い。

 鍵は外からしか掛けることができないから開けることは可能なものの、ウィルはドアノブに手を掛けることは出来ずにいた。

 いつもならこの時間には制服に着替えて晴れやかな顔で扉を開けてくれるはずだった。それなのに、今扉の奥からは全くもって音はしなかった。

 嫌になってしまったのか、とか今ちょうど出られないタイミングなのか、とかそういう思考が代わる代わるウィルの脳内に浮かび上がっては消えてく。

 やがてため息をついてもう一度ノックしながら彼は扉を開いた。

「サルサさん………?」

 首を傾げながら彼は一歩部屋へと踏み出した。

 部屋の中はカーテンが閉まっていて赤い月の光が部屋の中を支配していた。テーブルの上にはノートが開いて置いてあって、ペンがその上に出されていた。

 奥の洗面所やトイレも暗くなっていて誰かの気配も感じない。

 部屋の隅に置いてあるベットは一定のリズムで布団が上下していた。

「…………もしかして」

 そんなことを呟きながらウィルがベットを覗けば目を閉じて気持ちよさそうに眠っているサルサが目に入った。少し布団をめくっても全く目を覚ましやしない。

「……警戒心、解きすぎではないでしょうか……」

 ウィルは呆れたようなトーンで言ったが、その表情は愛おしいものを見るような顔だった。

「…………本当はもう少し寝かせてあげたいところですが、今日は教えた常識を覚えてるかどうかのテストをしないといけませんからね……」

 彼は布団を引き剥がすと、ベットの近くに置いてあるベルを振った。『RingRingRingRing……』と音がして、サルサがバッと起き上がった。

「…………な、なんの音……!?」

「朝ですよ、サルサさん。もう六時も十五分を過ぎようとしています」

「…………う、ウィルさん……! す、すみません! すぐに支度します」

「はい、早急にどうぞ」

 慌てたように洗面台の方へ走っていくサルサを見つめながらウィルはそっとため息をついた。

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いずれその身もそこに染まる シオン @saki_hikage

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