第7話 追い風
赤い月が空のてっぺんに上がる頃、お昼を済ませたウィルとサルサは城の外、といえども門の中にある庭に立っていた。
庭には花が咲き誇っており、風がサルサたちに向かって吹いていた。そんな様子を見ながらウィルが言った。
「……どうですか」
「…………え」
ウィルの問いかけに対して酷く困惑したような顔でサルサは答えた。
「どう、と言われましても…………大きいなぁ、みたいな」
「……ふふ、そうでしょうね」
意味深な笑顔でウィルは笑った。
「さて、今日は少しこの世界にしかない『魔法』のようなものをいくつか披露してさしあげます。貴方がどこかで見た時に不必要に驚いてしまうと、貴方の正体を知らない者に不信感を抱かせてしまいますからね」
「不信感………………?」
「不信感です」
「供物が城内で働いているということを知っているのは一部です。それ以外の職員は新人として採用されている、と伝えられています。なので、浮くようなことをすると不信感を抱かせてしまいます」
「…………え?」
サルサはひどく驚いたような顔をした。
「信じられないかもしれませんが、そういうことなんですよ。わ、我々も供物とかはあんまり言わないようにするわけです」
「分かりました…………」
「さて、いくつかやりましょうか。……どんなものが見たいとかのご希望はございますか」
その言葉に、目を閉じて考えたサルサはおずおずと声を発した。
「……空を飛ぶ……とか」
「無理です」
サルサは提案をキッパリと断られ、悲しそうな顔をした。そんな表情を見たウィルは軽く目を伏せた。
「……言いたいことは分かりますよ。魔法なんじゃないのか、と。ですがね、あくまで我々が使えるのは『魔法のようなもの』なんですよ。だから、空を飛ぶとかまぁいわゆる『零から一を生み出す』という所業ができません」
「…………そう、なんですか」
「さらに、高度な魔法になってくると私ではできなくなります。後日、魔法のスペシャリストのことを紹介しますが、限度というものがあります。高度なものの例としては『石から水を生みだす』などの『個体を別の個体に変える』所業が私にはできません。私にできるのは力や物を増やすことです」
「…………力や物を増やす?」
「実践しましょう。小物とか持ってますか」
「あ、はい!」
サルサはポケットから消しゴムを取り出してウィルに渡した。彼が手で強く握りしめてから開くと、消しゴムがふたつに増えていた。
「あ、増えてる……!」
「はい。これが『物を増やす』ことですね。じゃあ次に力を増やすことにしましょうか」
そう言って庭の方に手をかざすと、風が少し強くなって、追い風になった。
「…………風の向きが……」
「これは風力という力を増やしました」
「……なぜ逆に」
「……好みです。前髪、崩れるの嫌なので」
「…………なるほど?」
「それよりも。風が力を増やしたので強くなったでしょう」
「そうですね」
「これが、私たちが使える『魔法のようなもの』です」
ウィルは優しく微笑んだ。
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