第5話 冬晴れ

 きっかり六時にサルサの部屋にやってきたウィルは「今日からそろそろこの世界の常識とかをお教えしましょうね」と言った。

 しかし、そこからすぐに勉強会が始まるわけではなく、部屋の外へと連れ出されエレベーターを待つことになっていた。

「…………どこに、行くんですか……?」

 サルサが沈黙に耐えきれず恐る恐るそう尋ねれば、ウィルは軽く微笑みながら答える。

「先程言った通り、常識とかをお教えするためのお部屋に行きます」

「そんな部屋まであるんですか……!?」

「ないです」

「…………え」

 淡々とした声で否定され、困惑と共に固まってしまったサルサに対してウィルは楽しそうに笑った。

「……嘘ですよ。文献がある方が勉強しやすいでしょう? だから、書庫に行こうとしてるだけです」

「な、なるほど…………」

 サルサの返事とワンテンポずれてエレベーターが到着した。

「行きますよ、サルサさん」


「ここが書庫です。どうですか?」

「…………広い、です」

 高さ二メートルくらいの本棚に本がびっしり詰まっている。それがどこまでもどこまでも奥まで続いていた。

「はい、とても広いです。でも、いずれ奥が見えます。覚えておいてくださいね」

「…………え?」

 意味深な言葉を吐いたウィルはサルサの困惑に対して答えを明示することなく、書庫の奥まで進んでいく。しばらく歩けばテーブルが並んでいるスペースへとたどり着いた。

「ここが勉強スペースです。今日はここでやりましょうか。文献を持ってきます。少々お待ちください」

 窓の近くのテーブルを指し示してウィルはその場を離れた。おずおずと座って辺りを見渡せば窓の外に目が入った。

「わ…………」

 綺麗な夜空だった。レグヌス王国の夜空とは確かに様子が違い、赤色の月が煌々と光り輝いていたが、赤色の月と深い紺の空が反対色でありながら綺麗な光景になっていた。

「……空、綺麗でしょう」

 本をテーブルに置きながらウィルがそう呟いた。

「…………あ、はい……!」

「ここは窓が大きいですからね。……貴方はまだ遠慮してるというか、お客様……供物、でしたっけ。そんな態度ですからね。綺麗なものを見せるのもいいかと思いました」

「あ、ありがとう、ございます…………!」

 嬉しそうに目をキラキラさせながらウィルの方を見やったサルサに対して、慈しむような顔を見せたあとに一つ咳払いをした。

「さて、そろそろ始めましょうか」

「はい、よろしくお願いします……!」

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