第5話『ラスボス回避』
◇◆◇
私はとある『暗殺者』が、王家の影を始末しているところを確認していた。
多数対一だとしても、黒い影は飛び回り、周囲の敵を薙ぎ倒す。
けれど、彼は殺しはしない。当分動けなくするかもしれないけど……『ドキデキ』の後半に出て来るサブキャラ、殺せないのに暗殺者一家の居るテレンスは、人並み外れた身体能力を持ち、誰よりも戦闘が強い。
長年特別に訓練されたはずの王家の影だって、易々と片付けている素晴らしい手並みには驚くしかない。
だから、エイドリアンと離ればなれになったシャロンを救ってくれたりもするんだけど……今は私のブライアンを救って欲しい。
ここで攫われてしまえば無実の罪で獄中で拷問を受け、すべての尊厳を踏みにじられるのよ。
別に無償労働と言う訳でもないし、ブライアンの窮地を救えるのなら、宝石のひとつやふたつ……安いものだわ。
任地である辺境に戻っているブライアンは、油断して攫われてしまい、気がつけば犯罪の証拠の残るアジトに放置。
そこに踏み込む、王都の騎士団。罪名は、王太子エイドリアン……王族殺しを企んだため。
獄中で人が変わってしまうほどのむごい拷問。酷いよね。半分とは言え、同じ血を受け継いだ弟なのに。
けど、ブライアンが攫われなければ、それは絶対に起こりえない。私がそれを全部防いでしまうので、王様は地団駄踏んで悔しがると思う。
私は王様の弱みだって握っているもの。いざとなれば、それを出すまで。
「エステラ……ここに居たのか。馬車から離れれば、危ないと言っただろう?」
夜間、私は人知れず護衛してくれるテレンスのお手並みを拝見していたんだけど、馬車の近くに焚かれた火からかなり離れてしまったようだ。
「……ブライアン様」
「ここは危ない……早く戻ろう」
危なくはない。だって、私が全部ブライアンが陥れられそうな罠は事前に取り除いておきますので。
それは、一生……言わないけどね。
「ええ。大丈夫です。ブライアン様が一緒なら、きっと大丈夫ですね」
だって、『ドキデキ』の世界、すべてを知り尽くしていると言っても過言ではない転生者に、弟ブライアンを狙う兄王が敵うはずなんて……ないんだもの。
私がにっこり微笑めば、ブライアンはまだ慣れない笑みを浮かべて頷いてくれた。
Fin
異世界恋愛でしか摂取出来ない栄養がある。 待鳥園子 @machidori
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