第3話『正式な婚約者に』

◇◆◇



 王弟に当たる王族なのに、ブライアンには婚約者は居ない。居ないというか、不遇の立場にある彼には用意されなかった。


 彼の母は偶然前王の目に留まった踊り子で、王の子を産んだ後も放置されて、妃内の虐めで亡くなってしまった。その中でもブライアンは逞しく育ち、今では辺境を守る騎士団長にもなっている。


 本来なら彼の身分を考えれば王を守る近衛騎士団団長にもなろうというものだけど、ブライアンを嫌う兄王の企てで彼はいつも冷遇されていた。


 そんな腫れ物のような立場にある男性と結婚したいと思う女性も少なく、ブライアンは二十五歳になっても未だに独り身。


 今は八つ年の差があるけれど、私もOLをやっていた現代世界の年齢を考えると、ちょうど釣り合う。


 となれば、異世界恋愛ものの醍醐味……好きだったヒーローを救う展開になるのでは!?


 私は『本当に良いのか?』と何度か確認するお父様から、正式に縁談を打診してもらい、うきうきとして彼の返事を待っていた。


 エイドリアンが好きだったと言えば好きだったんだけど、エイドリアンはヒロインシャロンと結ばれて欲しいの。公式カップルの邪魔はしたくないという、私の『ドキデキ』オタク心による希望。


 シャロンに生まれ変われば良かったんだけど……正当ヒロインの邪魔をしてまでは、モブと結ばれてはいけない気がする。


「……本当だったのか?」


「何故……嘘をつく必要があるんですか?」


 ブライアンの邸に訪れた私は、二人きりになり見つめ合ってそう問われ、質問を仕返した。


 ブライアンは小説の中では悲劇のラスボスではあるものの、今はただの無愛想で不遇な王弟だ。私と結婚して頂いても、大いに構わないのでよろしくお願いします。


「わかっていると思うが、俺は今の陛下に嫌われている。今だ生きながらえているのが、不思議になるほどだ」


 ブライアンは淡々とそう話し、ああやっぱりブライアンは自分の境遇は、把握しているのだと私も思った。


 悲しい事だ。彼が何をしたという訳ではないのに。


 私はエイドリアンとシャロンのカップルは好きだけど、あの二人は運命の二人なので、何がどうなっても結ばれることは確定している。


 それに、主役二人は、確実に幸せになる。


 エイドリアンは未来の王だし、シャロンは身分違いでもない伯爵令嬢だ。


 私という不確定要素により、ブライアンがラスボスにならずとも、お互いが運命を感じているので、気がつけば勝手に結婚していると思う。そう言い切れる。


 けれど、ブライアンに関しては、小説の内容を知っている私の助力なしでは、不幸になることは確実なのよ!


 私にしかブライアンは救えないの!


 不幸になるはずだった彼を幸せに出来るという満足だって、ここで得ることが出来るのだ。前世不幸だった私も幸せになります。ありがとうございます。


「それは、別に構いません! ブライアン殿下は私では不満ですか?」


「……そうとは言っていない。後になって話が違うと言われれば……ああ。了承しているなら良いんだが」


 ブライアンは目を一瞬泳がせて、口元に手を当てた。


 嫌がっていない? 嫌がってはいないよね? これは、私はありだという事ですか?


 言い掛けた言葉は、話が違うと言われれば辛いという事です……? 私、そんな事絶対言ったりしないんで心配しなくて、大丈夫ですよー!!!


 興奮して思わず鼻息荒くなってしまうところを、私は必死で我慢した。今は一人で部屋で、小説を読んでる訳ではないのよ!


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