願ってもないゲーム転生を果たしたワイ、ポストアポカリプスな世界に来てしまい無事、咽び泣く

コーラ

第1話 転生

「あっ……」


 トラックに轢かれる今際の際で溢れたのはそんな情けない声だった。

 そして次の瞬間途轍もない衝撃が俺を襲った。



『……あら……もう……わねぇ』


『……仕方……この……しょう』


『…………な! ……様は……』


 何だ? 声が聞こえる。……女の声が3人分。俺は確かトラックに轢かれて死んだはず……ダメだ。体が重い、動かせない。それどころか体の感覚すら無い。目をあげようにも瞼が重く力を入れても開く気がしない。

 ……話し声も遠くなっている。


『……ゲーム……世界……転生……』


『この……無理……あの世界……!!』


『……いえ、……化身……しょ?』


 ゲーム、世界、転生、化身? 何の話だ。

 ネット小説なんかで流行りのアレか? だとすれば願ってもないことなんだけど……

 やばい、意識まで遠のいてきた。


『……………………』


 何か言ってるみたいだけど、聞き取れない……それに俺も……もう……




「はっ!? 俺、生きて……トラックに突っ込まれて死んだはずじゃあ……」


 意識が覚醒し、飛び上がる。

 自分の右手を見つめて手を握ったり開いたりしてみるが、俺の意思通りに手が動く。

 次に自分の体を触ったりしてみるが、特に異常は感じられない。


「にしてもここはどこなんだ……」


 空は灰色の雲が覆っていて、周りを見ると倒壊した建物やひび割れた家なんか沢山ある。そしてコンクリートはひび割れその間から草が生えている。


 世紀末。そう呼ぶに相応しい景色が目の前に広がっていた。


「それにトラックに轢かれた後に見た変な夢……うまく聞き取れなかったけど、ゲーム転生がどうこう言ってたけど……」


 俺の知ってる転生物ならゲームの悪役貴族やら、主人公、モブなんかに転生するものが多いけどこれは間違いなく俺の体だ。


 立ってみると身長も同じだし、右足の脹脛の部分に見知ったほくろまである。これで他人の体は無理があるだろう。


〈Hello New World〉


 疑問に思いながら辺りを見渡していると突然、機械的なアナウンスと共に目の前に文字が出現した。


「うぉ!?」


 な、なんだ!? 何で突然文字が、それよりもこの声どこから!?


「もっきゅ、もっきゅ……おろろ、旅人様! 目が覚めたようですね!」


 突然の出来事に困惑していると、後ろから声が聞こえてきた。

 後ろを振り向くとそこには懐中時計を持った二足歩行のウサギがいた。


 俺は思わず目を見開いてしまった。


 な、なんでここにスノービット先生がいるんだ!?


「おろろ!? 旅人様! 酷く驚いているようですね。ですがそれも仕方ないこと。この世紀末に咲く白いウサギを見ては当然のことです。私のことは親しみを込めてスノービットとお呼びください!」


 小洒落たおじきをするスノービットを見て俺は固まってしまった。


 何故ならスノービットはとあるゲームのチュートリアルキャラなのだから。


 とあるゲームの名前はゴッドガーデン。

 核戦争で生物が絶滅しかけた地球にファンタジーやSFをぶち込んだ迷作だ。

 全世界で驚異的な売り上げを叩き出していて、発売から5年が経っているが根強い人気のあるゲームだ。

 かくいう俺もゴッドガーデンには青春の全てを注ぎ込んだと言っても過言ではない。


「だからってそれは違うだろう!?」


「旅人様!? 急に大声を出されてどうかされましたか!?」


 俺は思わず叫んでしまった。

 理由? それは簡単だ。このゴッドガーデンは俗に言う死にゲーなのだ。

 誰が好き好んで、こんな世界に転生するんだよ。ゲームだから楽しんでやってたけどいざ自分が体験するとなれば話は別だ。


 ドラゴンなんちゃらとか、なんちゃらクエストとか、もっといい舞台あっただろ!

 そうじゃなくて学園恋愛ものとか! 異世界乙女ゲーとか! ゲームはいっぱいあっただろ!


「う、うぅ……」


「旅人様!? どこか痛むのですか?」


 このゲームが大好きだからこそ、この世界の過酷さは俺が一番よく知っている。

 これからのことを考えると涙が出てきた。俺は蹲って必死に声を抑える。


 こんな世界に転生するくらいなら、針山地獄でタップダンスを踊った方がマシだ。クソッタレ……

 

 

 

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願ってもないゲーム転生を果たしたワイ、ポストアポカリプスな世界に来てしまい無事、咽び泣く コーラ @ko-ra

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