第9話 見えない手

 舌尖音の集中力を高める訓練を終えたメイは、次のステップに進むことになった。それは「見えない手」を使う訓練だった。


 「舌尖音は物理的な限界を超え、遠くの物体に影響を及ぼす力を持つ。それを『見えない手』と呼ぶわ」

 サラが説明しながら、小さな球体を前に置いた。


 「この球を動かしてみて。舌尖音を使って意識を集中しなさい」


 メイは舌を使い、舌尖音をリズミカルに奏で始めた。

 「d... t... n... l...」




 しかし、最初は球体が微動だにしなかった。焦りを感じたメイに、サラが穏やかな声で諭す。

 「力で動かそうとしてはいけない。音のリズムに心を乗せるのよ」


 メイは再び深呼吸し、リズムを感じながら呪文を唱え直した。舌尖音が響き始めると、球体がわずかに揺れた。そしてついに、ふわりと宙に浮かび上がる。


 「やった……!」

 メイは歓喜の声を上げたが、その瞬間、集中が途切れ、球体が地面に落ちた。


 「まだ道のりは長いけど、一歩前進よ」

 サラは優しく微笑み、メイを励ました。

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