第8話 精神を研ぎ澄ます

 ティップスの村は、山々に囲まれた静寂の谷に広がっていた。その空気は張り詰めており、メイは自然と背筋を正す。村人たちは、舌尖音を使って精神を集中させ、超常的な力を操るという。


 「舌尖音は集中の音。意識を一点に集め、エネルギーを研ぎ澄ます術だ」

 村の指導者であるサラは、そう言いながら手本を見せた。



 「d... 意志の鋭さ

  t... 思考の速さ

  n... 心の安定

  l... 流れる力」


 サラが舌を器用に使いながら呪文を発すると、空気が震え、目の前にあった岩が音もなく割れた。


 「すごい……」

 メイは驚嘆の声を漏らした。




 「さあ、次は君の番だ」

 サラが優しく微笑むと、メイは深呼吸をして意識を集中させた。


 「d... t... n... l...」


 最初は舌の動きがぎこちなかったが、サラのリズムを真似して繰り返すうちに、舌尖音がメイの内面に響き始めた。その瞬間、彼女の意識が冴え渡り、頭の中がクリアになる感覚を覚えた。


 「d, t, n, l...」

 リズムに乗るごとに、自分の中に眠る力が解き放たれるのを感じる。


 「よくやったわ。その感覚を大切に」

 サラの言葉に、メイは小さく頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る