第7話 揺れる心

 その夜、メイは村の外れにある丘で一人座っていた。周囲には星明かりしかなく、静寂が彼女を包んでいた。


 彼女は心の中で湧き上がる不安と向き合っていた。唇音の魔法を少しずつ習得しているものの、自分の力が本当に役に立つのか確信が持てない。


 「私は……本当に音を取り戻せるのだろうか」


 その問いは、答えのないまま夜空に消えていく。


 しかし、彼女の胸の中で再び旋律が生まれた。幼い頃に母から教わった歌が、彼女の心を優しく包む。




「ル・ラ・ル、風が踊る

 ル・ラ・ル、大地が語る

 ル・ラ・ル、唇が紡ぐ希望」


 メイがその旋律を口ずさむと、唇音の魔法が無意識に発動した。大地が微かに震え、周囲の木々が葉を揺らしながら彼女に応える。


 「できた……!」


 彼女は初めての成功に驚き、同時に胸が熱くなるのを感じた。アルトが言っていた「唇の力」が、自分の中に確かに存在していることを実感したのだ。


 その瞬間、彼女の迷いは霧が晴れるように消えた。


 「私にはできる。唇音の力を使って、必ず音を取り戻してみせる」


 メイは星空を見上げながら、心に新たな決意を抱いた。その夜、彼女の中で旋律が一つの形を持ち始め、次なる冒険への力となっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る