第4話 風とともに広がる愛
風の門は、優しい緑の丘の中腹にあった。草原を渡るそよ風が、どこか懐かしい匂いとともに葵の頬を撫でる。葵はその心地よい風に包まれながら、何か温かなものが心に広がっていくのを感じた。
「葵、風の門は愛を象徴している。愛とは、ただ与えるだけでなく、受け入れること、そして許すことだ。この門を越えるには、人間関係で抱えている課題と向き合い、無条件の愛の力を取り戻す必要がある。」
フィリオが静かに語りかける。
葵は小さく頷くと、門の奥へと足を踏み入れた。風の音が耳元で優しく囁き、彼女の心を導いていくようだった。
門を越えた先は、まるで別世界のようだった。青空がどこまでも広がり、風が絶え間なく流れる草原の中、花々が揺れている。その風景は美しく穏やかだったが、葵の胸の奥には小さな痛みが疼き始めていた。
突然、風の中から懐かしい声が聞こえた。
「なぜあの時、もっと素直になれなかったの?」
それは、過去の自分の声だった。愛する人に心を閉ざしてしまった日々、友人との誤解を解けずに終わった記憶――それらが次々と蘇り、胸を締め付ける。
「私は、人を傷つけたくないと思っていたのに、結局自分の言葉や態度が相手を遠ざけてしまった。」
葵は目を閉じて、その記憶に向き合った。涙が頬を伝い落ちる。
その時、風が一層強く吹き、彼女を包み込んだ。その風はまるで優しい手のように、葵の心の中の痛みを癒していく。
「許しなさい、まずは自分を。そして、あなたが愛したすべての人を。」
風の声が囁くように語りかけた。
葵は静かに息を吐き出し、過去の自分に微笑みかけた。失敗や傷つけ合った記憶もすべて、彼女の中で「自分の一部」として受け入れられていく。風が心の中の固く閉ざされた扉を開き、葵の感情が広がり始めた。
その瞬間、風景が変わった。目の前に、今までの旅で出会った人々が現れる。それは母の笑顔だったり、友人の励ましの言葉だったり、何気ない日常の中で感じていた小さな幸せの記憶だった。葵は、そのひとつひとつが自分の中にある愛の形であることを知った。
「愛は与えるだけでなく、受け取ることでも育まれる。受け取ることを恐れないで。」
フィリオの声が優しく響いた。
葵は胸の前に手を置き、自分の中に広がる温かな感覚を感じ取った。その感覚はまるで、心の奥底で芽吹いた光の種が風に乗って広がり、大地に降り注いでいくようだった。
風の門を抜けた時、葵の心は穏やかで満たされていた。彼女の中には、新たな気づきが生まれていた。愛とは完全でなくてもよいこと。時に不器用で、間違いだらけでも、それでも人とつながろうとする心が愛の本質だということ。
「葵、無条件の愛とは、すべてを許し、受け入れる力だ。あなたが今感じているその力は、これから多くの人々の心に届くだろう。」
フィリオはそう言って微笑んだ。
葵はその言葉に深く頷き、心に誓った。この愛の力を使って、これから出会う人々とより深くつながり、共に幸せを育んでいこうと。
風の音は静かに彼女を包み込み、次なる試練への道を優しく指し示していた。
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