第5話 声を上げる勇気
「声の門」にたどり着いた葵は、これまでの門とは異なる雰囲気に驚きを覚えた。目の前には巨大な鐘があり、その奥に青い光が渦巻いている。鐘の音がかすかに響き渡り、空気全体に共鳴しているようだった。
「ここは声の門。ここでの試練は、自分の声を信じ、その力を解放することだ。」
フィリオが静かに説明する。「言葉には、世界を動かし、仲間を導き、感動を与える力がある。それを恐れずに使いこなすことが、この門を通る鍵となる。」
葵は大きく息を吸い込み、心を落ち着けた。これまで自分の声に自信が持てず、人前で意見を述べることを避けてきた彼女には、この試練はこれまで以上に難しいものに思えた。
門の中へと一歩を踏み出すと、葵は奇妙な空間に引き込まれた。それは広大なホールのような場所で、無数の人々の影がざわめきながら彼女を取り囲んでいた。そのざわめきの中には、批判や否定の声も混じっている。
「これが私が恐れていたもの……。」
葵は喉の奥が締め付けられるような感覚を覚え、言葉を発することができない。自分が言葉にすることで、他者から拒絶されたり傷つけたりすることへの恐怖が押し寄せてきた。
その時、フィリオの声が風のように響いた。
「葵、自分の声は誰のためのものだと思う?それはあなたの真実を伝え、必要な人々に届けるためのものだ。相手がどう反応するかを恐れるよりも、まず自分自身がその言葉を信じることが大切だ。」
葵は目を閉じ、自分の心の中にある声を感じ取ろうとした。胸の奥から湧き上がる感情、伝えたい思い――それらが小さな光となって喉の奥に集まり始めた。
葵はゆっくりと目を開き、深く息を吸い込むと、勇気を振り絞って口を開いた。
「私は……私の声を通じて、誰かの心に光を届けたい。」
その言葉が発せられると、ホール全体が静まり返り、影のざわめきも消えた。葵の声が波紋のように広がり、空間全体に響き渡る。その響きは、ただの音ではなかった。それは人々の心に触れ、共鳴を引き起こす力を持っていた。
突然、周囲の影が鮮やかな色に変わり、次々と感謝や希望の言葉を返してきた。
「その言葉に救われた。」
「ありがとう、勇気をもらったよ。」
「私も自分の声を信じてみる。」
葵はその瞬間、言葉がどれだけの力を持っているかを実感した。自分の声を恐れずに使うことで、誰かの人生に変化をもたらせる――それが言葉の持つスピリチュアルな側面だと彼女は気づいた。
フィリオが微笑みながら語りかけた。
「今、葵が体験したことは、現代のマーケティングの本質と同じだ。人々に感動を与え、共鳴を引き起こすこと。それは、ただ商品やサービスを売るだけではない。心を動かし、価値を伝えることなのだ。」
「声を上げることは、自分を表現するだけでなく、相手を思いやる力でもあるんだね。」
葵は深く頷いた。自分の言葉が他者の心に届き、その人たちの世界を少しでも明るくできる――その気づきが彼女に大きな自信を与えた。
声の門を越えた葵は、これまでよりも軽やかで自信に満ちた表情をしていた。喉のチャクラが解放されたことで、彼女は自分の声を恐れることなく使い、他者に感動を与える力を手に入れたのだ。
「葵、次の試練が待っているよ。だが、君の声があれば、どんな困難にも立ち向かえるだろう。」
フィリオの言葉に、葵は微笑みながら頷いた。
新たな力を手にした彼女の旅は、ますます深まり、輝きを増していく。
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