第3話 炎の力で未来を照らす

 「炎の門」は、丘の上にそびえ立っていた。門の向こうから、暖かな光と共に、どこか懐かしさを感じさせる熱気が漂ってくる。丘に近づくにつれ、葵(あおい)は胸の中に不安が広がっていくのを感じた。


 「葵、炎は意志を象徴している。この門を越えるには、君の弱さや迷いに向き合い、それを乗り越えなければならない。」

フィリオの声が穏やかに響いた。


 葵はその言葉に深く息を吸い込み、少し震える足取りで炎の門へと向かうことを決意した。彼女の心には、自分に自信が持てず、他者の評価ばかりを気にしていた過去がよぎる。果たして、そんな自分を乗り越えられるのだろうか。




 炎の門に足を踏み入れると、葵は一面が赤と金の光で包まれる世界に引き込まれた。辺りには静かに燃える炎が無数に揺らめいている。それぞれの炎が、彼女の心の中にある迷いや不安を映し出しているように感じた。


 その時、炎の中から低い声が響いた。

 「何を恐れている?何を守りたい?お前が本当に望む未来はどこにある?」


 葵は言葉に詰まった。彼女は過去に何度も、自分の意志を通すことをためらった記憶があった。誰かに嫌われるのではないかと恐れたり、責任を回避するために選択を他人に委ねたり。自分の人生を生きているはずなのに、まるで他人の期待に従っているような感覚。それが、彼女をいつも苦しめてきた。




 炎の中に浮かび上がったのは、幼い頃の葵の姿だった。クラスメートに遠慮して言いたいことを言えず、心の中で泣いていたあの日。会社での会議で、自分の意見を飲み込んでしまった瞬間。これらの記憶が、次々と鮮やかに蘇ってくる。


 「私は……ずっと自分を否定してきた。他人の期待や評価ばかりに囚われて、本当の自分を大切にしてこなかった。」


 涙がこぼれ落ちるのを感じながら、葵は小さな炎のひとつにそっと手を伸ばした。その炎はまるで彼女の心の中を見透かすように、一瞬揺らぎ、そして穏やかに燃え続けた。


 「自分の弱さを受け入れること。それが本当の強さだよ。」

 振り返ると、フィリオが優しく微笑んでいた。その言葉に葵は少しだけ肩の力を抜き、炎の中で輝く自分の姿を見つめ直した。




 次の瞬間、葵の周囲の炎が一斉に大きく燃え上がった。そして彼女の心の中にも、小さく灯っていた意志の炎が確かな力強さを帯びていくのを感じた。今まで抑え込んでいた「自分を大切にする気持ち」が彼女の中で広がり、自信へと変わっていく。


 「自分の中の光を信じなさい。そして、その光を他者にも伝えることを恐れないで。」

フィリオの声はまるで炎そのものが語りかけているかのようだった。


 葵は炎の中で手を広げ、自分の胸の奥から溢れ出る光を感じた。その光は炎と共鳴し、周囲の世界を照らしていく。心の奥底から湧き上がる感覚に、彼女は初めて自分が本当に「自分自身」でいることの喜びを感じた。




 炎の門を抜けると、葵は広がる大地の上に立っていた。その目には、揺るぎない決意と希望が宿っている。彼女は深呼吸をし、静かにフィリオに向き直った。


 「フィリオ、私は自分の中にある光を他の人にも伝えたい。それが、私にできることだと思う。」


 フィリオは満足そうに頷き、彼女の肩に手を置いた。

 「その意志こそが炎の力だ。自分の光を恐れずに示すことで、周りの人々の心にも火を灯せる。さあ、次の門に向かおう。」


 葵の中には、他者の目を恐れる気持ちはもうなかった。自分の意志を信じ、未来を照らす光となる決意を胸に、彼女は次なる旅路へと足を踏み出した。


 炎のチャクラが活性化した彼女の歩みは、もう迷うことなくまっすぐに続いていく。

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