第2話 水の流れを感じて
葵(あおい)は「大地の門」を越えたことで、自分の中に確かな安心感と自信を取り戻していた。しかし、フィリオの言葉は彼女に新たな試練が待っていることを告げた。
「次は『水の門』だ。水は感情の流れを象徴している。止まった感情やこだわりがあると、水は淀み、行動も鈍る。それを解放するのが今回の試練だ。」
葵は少し不安になった。感情は人間にとって最も複雑で扱いにくいもの。果たして自分にできるのだろうか。しかし、フィリオの優しい微笑みに励まされ、彼女は再び旅立つことを決意した。
「水の門」は、緑深い森の中にあった。小川が流れる音が心地よく響く一方で、門の周囲には濃い霧が立ち込めていた。門自体は透明な水晶でできており、揺らめく水のようにゆらゆらと光を反射している。
「この門を開けるには、君の感情を解き放ち、過去の執着を手放さなければならない。」
フィリオの声が霧の中から響いた。その言葉に、葵の胸にはっきりとした動揺が生じた。彼女は過去に、多くの感情を抱えたまま整理できずにきた。例えば、かつて信じていた人からの裏切りや、失敗した経験への後悔。それらが心のどこかに蓄積し、行動をためらわせる原因になっていることを、彼女は薄々感じていた。
霧の中に一人で立つ葵の前に、静かに水面が現れた。そこには彼女の過去の記憶が次々と映し出される。楽しかった日々もあれば、苦しかった出来事もある。その中で、彼女の視線はひとつの光景に引き寄せられた。
それは、親友だと思っていた人からの裏切りの瞬間だった。そのときの怒りや悲しみは、今でも彼女の胸の中に小さな棘のように残っていた。涙が頬を伝うのを感じながら、葵はその記憶をじっと見つめた。
「私は……ずっとこの感情を抱えたままだった。でも、それを手放さないと、前に進めないんだよね。」
水面に映る過去の自分にそう語りかけると、まるで水が彼女の言葉に応えるかのように静かに波紋を広げた。その瞬間、葵の心の中で何かが弾け、涙とともに長い間閉じ込めていた感情が流れ出した。
葵が感情を解き放った瞬間、霧が晴れて周囲の景色が一変した。透明で美しい川が流れ始め、彼女の足元をやさしく包み込むように流れる。その水の冷たさは彼女の心を浄化し、滞っていた感情を洗い流していく。
「よくやったね、葵。水は自由に流れることでその力を発揮する。君の中の感情も、流れを取り戻したんだ。」
フィリオがそっと彼女の肩に手を置き、優しく微笑んだ。その瞳の中には、まるで川のような穏やかさがあった。葵はその言葉に深くうなずき、胸の奥から湧き上がる力強さを感じた。
「過去の自分を責めたり後悔したりしても、何も変わらない。それよりも、今ここにいる自分を大切にしていきたい。」
その言葉を口にした瞬間、水の門が音もなく開いた。葵は軽やかな足取りでその先へ進み、次なる景色へと目を向けた。
門を抜けた先には、美しい湖が広がっていた。そこでは風が水面を揺らし、光がキラキラと反射している。葵はその場で深呼吸をし、自分が新たな段階に進んだことを確信した。
「水のチャクラが活性化された今、君には行動する力が宿っている。感情の流れを恐れるのではなく、それを受け入れ、進むんだ。」
フィリオの言葉に、葵は力強くうなずいた。もう過去にとらわれることなく、彼女は次なる試練へと向かう準備ができていた。
こうして、葵の旅はさらに深まっていく。内なる感情を解放し、行動力を手に入れた彼女は、新たなチャクラを目覚めさせるため、次の扉へと歩みを進めるのだった。
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