恨み

ボウガ

第1話

 A子の背後に娘が立った。

「どうして、Bちゃん、あなたは死んだはずよ!」

 しかし、その女は、女性を崖へと追いやった。この崖は、古くから曰くのある海崖、断崖絶壁である。かつてある夫婦がもめて、別れ話をしたときに謝って生まれたばかりの赤ん坊を崖から落としてしまった。女性は以前より不倫し、暴力を振るう旦那を深く恨んでいたために、呪術師に頼んで旦那の死を望んだが、旦那は死なず、呪いは赤ん坊へと向かった。深く反省した女性は死ぬまでこの崖の上で毎年祈りをつづけたという。


「私は、自分の事をこの崖から落とされた赤ん坊だと思っていた、かつて、姉の事が羨ましかった、けれど今は違う」

 醜い顔が姿を現した。

「まさか、ありえない!生きているはずが、生きているはずがないわ!」

 A子は、まだBが幼かったころに殺してしまったC、Bの妹の事を思い出した。

「Bは、姉はあなたに殺された」

「違う!彼女は精神病院の中で、見えない何かにおびえていた!私じゃない!」

「それこそがあんたよ、あんたの精神の異常性は皆しっていた、けれどあなたはそれにかこつけて、次々に新しい男を望んだ、そしてその端緒にしたのが、B、私の姉、姉を利用して男を誘い出し、お得意の洗脳で、男を囲い、挙句の果てには姉の若差に嫉妬して、姉の精神を傷つけ続けた!あなたは母親失格よ!」


「Cちゃん!ごめんなさい」

 突如、Cは動きをとめた。母親の悲しそうな顔と声、だれもがこのかすれた声と、やさしいまなざしに一時心を奪われてしまう。だがぐっとこらえた。

「私はこれまで、姉にずっと恨まれてきた、姉の想像の中で作り出した敵はあなたではなく私だった、死んだはずの私、姉はそうすることで精神を保っていたのかもしれない、けれど私は生きていた、わかる?あなたはこの崖の伝説に残る呪術師の家系、そしてあなたは呪術を使えた、洗脳技術だけじゃない、呪術を、姉もそう、私の人生もまき沿いをくらったの、あなたが呪術によって、偶然この崖から落としたように装って死にかけた私の」

「やめましょう!」

 Aが絶叫に近い声を上げる。

「過去を振り返っても意味がない、もうB子は死んだのよ、お願い、私は私を本当に愛してくれる旦那に出会ったの、最初の旦那、つまりあなたの父よ、今は一緒にくらしているの」

 Cは懐から包丁をとりだし、振り上げた。Aはつづけてまくしたてる。

「あなたは分からない!私も母親から同じような目にあわされ!幼いころに多くの男に乱暴されたのよ!それで気が狂ってしまったの!もういいじゃない!もう許してよ!」

 砂利を蹴り飛ばし、また迫ってくるC。

「それでも私が彼女の代わりにあなたを殺さないといけない……あなたは、子供が生まれたはず、子供を同じ目に合わせるわけにはいかない」

「やめっ!」

 痛みとともに腹部に熱さを感じた。そして、徐々に意識が薄れ、痛みも薄れていく。

「新しい旦那は、私の父じゃない、もう調べてある、あなたは過去から逃れられない」

「人を呪わば穴二つ、あなたも不幸よ」

「私も一緒に行くわ、必死に稼いだお金は、新しい子供にあげるの、心配はいらない、ともに地獄に落ちるわ、お母さん」

 波の音に紛れ、二つの人影が海へ落ちた。騒がしい皆もはその直後不思議にも音を止め、その呪術師の家系はそこで途絶えたのだった。




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恨み ボウガ @yumieimaru

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