無能力バトルロイヤル
三坂鳴
第一部:閉ざされた施設
第1章:呼び覚まされた戦慄
登場人物
1. 高坂 宏太(こうさか こうた)
・能力:自分の影を1秒だけ操る能力(ただし動かせる範囲は極小)
・性格・背景:
・どちらかというと臆病で、日陰を好むタイプ。
・「あまり目立たずに生きるのが性に合っている」と言うが、今回のデスゲームでは否応なく戦いに巻き込まれる。
・軽い運動神経はあるが、戦闘にはまるで自信なし。
2. 宝生 ルカ(ほうしょう るか)
・能力:ジャンプしたとき、着地する音が毎回違う音楽になる能力
・性格・背景:
・音楽好きだが、能力は戦闘にまるで役立たないことを嘆いている。
・危機的状況でも、その能力が発動してコミカルな効果音が鳴るため、周囲から注意されがち。
・明るい性格で、どんな状況でも軽口を叩いてしまう。
3. 森下 海人(もりした かいと)
・能力:どんなに眠くても常に眠れない能力
・性格・背景:
・本人はいつも疲労困憊で、目の下にクマができている。
・眠れないため集中力も落ちているが、逆に「寝込みを襲われる」心配だけはない。
・不眠症が長年続いているため、精神的にやや不安定。
4. 南條 エリカ(なんじょう えりか)
・能力:すべての食べ物の匂いが「カレー」にしか感じられない能力
・性格・背景:
・どんな料理を食べても香りはカレー、味だけはかろうじて判別できるらしい。
・食への楽しみをほぼ失っており、味気ない人生を送っている。
・料理スキルはあるが、自身は作った料理の香りを楽しむことはできない。
5. 北条 光希(ほうじょう みつき)
・能力:着ている服を毎回ピンクに変える能力
・性格・背景:
・おしゃれが趣味だったが、能力が発現してからはどんな服もピンク色になってしまうため悲嘆に暮れている。
・目立つことは嫌いではないが、命を賭ける場面で派手に目立つのは不利なのではと考えている。
・現在は逆手に取って「いっそピンクを着こなしてやる」と開き直る。
6. 宇佐美 リヒト(うさみ りひと)
・能力:毎日、無関係な歴史的事件の詳細を記憶する能力
・性格・背景:
・能力のせいで膨大な歴史上のどうでもいい知識を抱え込んでいるオタク気質。
・思わず知識をひけらかしてしまうことが多く、周囲から煙たがられる。
・しかし論理的思考力は高く、状況判断や推理には長けている。
7. 久遠 柊馬(くどう しゅうま)
・能力:月に1回だけ、無意味な言葉を1時間だけ話し続ける能力
・性格・背景:
・普段は無口だが、月に1回だけ「言語が壊れたかのような謎の言葉」を延々と語り続けてしまう。
・タイミングが完全に予測できないうえ、デスゲーム中に発動したら大ピンチ。
・戦闘に関してはかなり冷酷な判断ができるタイプ。
8. 青木 幸子(あおき さちこ)
・能力:植物と一瞬だけ会話できる能力(内容は基本的に「こんにちは」)
・性格・背景:
・ほんわかとした性格で、人や動物だけでなく植物すらも大切にする。
・戦闘に関しては乗り気ではないが、命を守るためにはやむを得ないと感じ始める。
・どんな状況でも植物に「こんにちは」と言われるのが少し癒やしらしい。
9. 伏見 圭(ふしみ けい)
・能力:どんなに早く走っても常に10分遅れて到着する能力
・性格・背景:
・本人はいたって真面目で時間を守るタイプだが、能力のせいでいつも遅刻扱いに。
・焦っても結果が変わらないため、諦観に近い落ち着きを持っている。
・近接戦闘はそこそこ得意だが、タイムロスが常に発生するのがネック。
10. 高麗 杏奈(こうらい あんな)
・能力:一定時間ごとに無意味な歌を歌い始める能力
・性格・背景:
・毎日決まった時間ごとに、手が付けられないほど大声でナンセンスな歌を歌い出す。
・誰もその歌詞を理解できないが、本人も意味を考えていない。
・面倒くさがり屋で、大雑把な性格。
・しかし、いざという時に大胆な行動に出る勇気がある。
薄暗い照明の下で目を覚ましたとき、高坂宏太は自分がどこにいるのかまるでわからなかった。
冷たいコンクリートの床が背中に貼りつき、身体を起こすと、周囲には同じように倒れている人々がいた。
十人――そう数えるまでに少し時間がかかった。
見知らぬ顔ばかりだが、皆一様に混乱の色を浮かべている。
宏太が立ち上がり、足元を確認しようと軽くジャンプした瞬間、妙なピアノ曲の一節のような音が微かに耳に届く。
だがそれは自分が出した音ではなかった。
彼が首を傾げると、同時に「なんでこんな音が……」と呟いている少女の声が聞こえた。
「もしかして、あなたが出した音楽……?」
宏太が尋ねると、少女は気まずそうに笑った。
「ええ、私の“変な能力”なんです。宝生ルカっていいます。ジャンプするたびにいろんな音楽が鳴っちゃうんですよ。まったく役に立たなくて……」
彼女の表情からは不安がにじんでいた。
薄茶色の髪を肩まで伸ばし、落ち着きなく周囲を見回している。
宏太は彼女の言葉にうまく反応できず、ただ「そうなんだ」と返すしかなかった。
すると、奥の方で苛立ったような声が響く。
「こんなところで目覚めるなんて、ふざけたことになったもんだ」
声の主は細身の青年で、深いクマを抱えた目が痛々しい。
森下海人というらしい。
その隣には少しおしゃれそうな服装(だが微妙に色味がすべてピンクっぽい)を身につけた北条光希がいて、妙な組み合わせに見えた。
海人は続けて言う。「俺は眠れないんだ。ずっと、もう何年も……“異能力”だかなんだか知らないが、眠れないってだけでどうしろってんだよ」
彼の目は充血していて、限界寸前のようにも見える。
それでも彼が起きていられるのは、身体がそういうふうにできてしまっているからなのだろう。
光希の方はというと、周囲を見回してぽつりとつぶやいた。
「……なんで私の服、こんなにピンクに染まってるわけ? 白いワンピース着てたはずなのに。まったく、こんな能力いらない……」
彼女はひどくうんざりした様子で服の裾を引っ張った。
目立ちたくないのにピンク色。そんな不満が表情から滲んでいる。
ただならぬ雰囲気を遮るように、施設の天井から無機質なアナウンスが響いた。
「お目覚めのようですね。ここは特別なゲームの会場です。あなた方十名には、互いを殺し合っていただきます。最後の一人になるまで、どうぞご自由に――」
言葉にならない衝撃が全員を襲う。
誰もが何かの悪い冗談だと思いたかった。
しかし放送は続く。
「なお、逃げ出すことはできません。あなた方にはそれぞれ“異能力”が備わっているようですが……このゲームではどれほど役に立つのでしょうか。お楽しみに」
空気が凍りつくような沈黙が落ちた。
宏太は息を呑み、じっと耳を澄ますしかできない。
互いに顔を見合わせても、ここがどこなのか、どうしてこんな目に遭っているのか、まるでわからなかった。
そして意を決したように立ち上がったのは、背の高い青年、久遠柊馬だ。
彼は口数が少ないように見えたが、どこか冷静さを保っている。
「……まずはお互い、名乗り合うところからだ。わけのわからない能力があるらしいが、それも共有したほうがいいだろう」
柊馬がそう言うと、スッと前に出たのは、宇佐美リヒトという小柄な青年だった。
丸眼鏡越しの鋭い視線が印象的だ。
「毎日、無関係な歴史的事件を覚え続けてしまう。正直、こんな知識は誰の役にも立たない。けど、ここから脱出するためのヒントになればまだいい。……名前は宇佐美リヒト。よろしく」
彼は語る間にも、何やらぶつぶつと歴史の年号を呟いているようだった。
その口調に苛立ちを露わにしたのは、高麗杏奈という女性だ。
「ええと、私は毎日決まった時間になると、訳のわからない歌を歌い出しちゃうの。本当にどうしようもないわ。……こんな場所でそれが発動したら最悪ね。だいたいこんな状況、勘弁してよ」
アナウンスの声がどこから聞こえてくるのか探しながら、彼女はうんざりと頭をかきむしった。
すると、最初に倒れていた女性が足音を立てて近づいてくる。
ショートカットで快活そうだが、どこか食べ物の匂いに注意を払っているような仕草を見せる。
「私、南條エリカっていうの。能力って言えるのかわからないけど……どんな食べ物の匂いを嗅いでも、カレーにしか感じられないの。……こんなときに何の役にも立たないわよね」
彼女は暗い顔をしてそっと首を横に振った。
それを見た青木幸子という柔和な雰囲気の女性が、エリカの肩を優しく叩いた。
「大丈夫よ。私だって、植物と“こんにちは”しか会話できないの。あなたの能力よりも奇妙かもしれないわ。でも、まずは落ち着きましょう」
青木の声はどこか母性的で、少しだけ周囲の不安を和らげる。
何もわからない状況でも、誰かが優しい言葉をかけてくれるだけで心が救われる気がした。
残るのは伏見圭という、落ち着いた雰囲気の男性だった。
全員の視線に気づいた圭は、静かに口を開く。
「俺は伏見圭。どんなに急いでも、必ず十分は遅れてしまう。……役に立たない以前に、妨げにしかならない。こういう状況だと、仲間を助けようにも遅刻確定だ」
彼は目線を落とし、自嘲するように肩をすくめた。
だが、その仕草には静かな決意も感じられる。
どう足掻いても誰かを守れないかもしれない――それでも諦めないという、妙な頑固さが見え隠れしていた。
最後に改めて名乗った宏太は、ため息混じりに言う。
「俺は高坂宏太。自分の影を……ほんの少しだけ、しかも一秒ほどしか操れない。それもすごく狭い範囲だけ。本当に、何の役に立つのか、わからない」
彼自身もこの場にいる全員と同じく、自分の能力が空虚に感じられる。
だが、この不可解な“デスゲーム”では、何が起きるかわからない。
宏太の視線は周囲をうかがい、次に何をすべきか探っていた。
すると、先ほどのアナウンスが再び流れる。
「自己紹介も済んだようですね。それでは、本日より開始する“バトルロイヤル”を存分にお楽しみください。あなた方が生き残るもよし、命を落とすもよし。ただし、外へ出る道は閉ざされております」
乾いたノイズ混じりの声が、まるで歓迎しているかのようなトーンで続いているのを聞いて、宏太の胸には得体の知れない不安が重くのしかかった。
ここから逃げることは不可能なのか。生き延びるためには、誰かを殺すしかないのか――。
張り詰めた空気の中、久遠柊馬が視線を奥の通路へ向けた。
鋭い眼差しの先には大きな鉄の扉がある。
だが、そこにはしっかりと電子錠のような装置が付いており、そう簡単には開かなさそうだ。
「まずはこの施設の構造を探るしかないな。……皆で動くか? それともバラけるか?」
柊馬の問いに、海人が短く鼻を鳴らす。
「どうせ目立つ能力もない連中だし、まとまってたほうが無難だろう。おまけに寝込みを襲うなんてことも、俺の場合は無関係だけどな」
海人の捻くれた笑みを、宝生ルカが不安げにちらりと見る。
「……でも、これから“殺し合い”をしなきゃいけないんだよね。私たち……本当にそんなこと、できるのかな」
ルカの言葉に誰も答えられない。
やがて、北条光希は唇を噛んだまま小さく首を振るだけだった。
ピンク色に包まれた光希の姿を見て、宇佐美リヒトがぽそりと呟く。
「服がピンクになるなんてのはまだ可愛いほうかもしれない。……ここでは“相手を殺せる能力”を持つ者なんていない。ある意味、戦いにならない。だが、だからこそ何をするかわからない、という怖さがある」
その言葉に皆が静まり返る。
突拍子もない力があれば、まだわかりやすい。
だが今ある能力は“役立たない”ばかり。
それが逆に何を生むのか――それはまったくわからない未知の恐怖だった。
天井の照明が一段と暗くなる。どうやら時刻が移ろっているらしい。
時間の経過すら見えない閉ざされた空間で、十人の男女はただ互いの顔を見つめ合う。
誰もが何をすべきかわからない。
これまでの日常が一変し、いきなり「生き残るための殺し合い」と宣言されたのだ。 空気が重い。
だが、その重さこそが命の危機を突きつける現実だった。
こうして高坂宏太たち十人は、出口のない“バトルロイヤル”の始まりに身を投じることになる。
誰が何のために仕組んだのか、彼らの“役立たない能力”が今後どんな形で利用されてしまうのか、まだ誰にもわからない。
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