9 賊との戦い
「さては君、いいところのお嬢さんだなぁ? いけないねぇ、こんな所にそんな子が一人でいるなんてさぁ」
里奈が装備しているマジックアイテムを凝視しながら、賊リーダーはそう言って更に里奈との距離を詰めた。
これ以上近づけば賊リーダーの攻撃は里奈に届くようになるだろう。
だがそれは同時に里奈の攻撃も彼に届くと言うことである。
「それ以上は近づかないでください」
それを里奈も理解しているため、一旦は警告するのだが……。
「そいつは無理な話だなぁ。そうしねえと、君に攻撃が届かないからねぇ……!」
賊リーダーは彼女の言葉など最初から聞くつもりは無く、あろうことか攻撃を開始してしまう。
とは言え彼がそうしてしまうのも仕方のないことだろう。
相手は武装しているとは言え所詮は少女なのだ。一瞬にして無力化して装備を奪って逃げれば何の問題も無い訳である。
「貰ったぁ!! ぁ……?」
しかし残念ながら彼の目論見通りにはいかない。
何故なら彼の目の前にいる少女は正真正銘の化け物なのだ。
「近づかないでくださいって言いましたよね」
「なっ、何がどうなってやがる……!?」
たった指一本で攻撃を受け止められてしまった賊リーダーは、ただただ目の前の光景に驚くばかりだった。
鍛えに鍛えまくった熟練の戦士であればこのような芸当も可能なのだが、里奈はたった10歳の少女である。
何をどう考えてもおかしいのだ。
「ええぃ、お前ら! やっちまえ!!」
しかし諦めの悪い賊リーダーは取り巻きに指示を出し、里奈に攻撃をさせる。
だがその攻撃全てを里奈はいとも容易く避けきってしまう。
「ば、化け物め……」
「女の子に化け物だなんて……酷くないですか?」
と、里奈は困り顔でそう言った。
あまりにも異常なこの状況を前にして本当に困っているのは賊リーダーの方なのだろうが、そんなことは里奈には関係が無いのだ。
「ひ、ひぃぃっ!? た、助けてくれぇっ!!」
このままでは命の危険が危ないと判断した賊リーダーは里奈の前から逃げて行く。
「あっ、ちょっと……! ってもうこんな時間じゃん……!」
それを追おうとした里奈だが、このままでは寮の門限に間に合わないために仕方なく彼を見逃すと、再び寮探しを始めたのだった。
――――――
「良かった、間に合った~」
寮の門限にギリギリの所で間に合った里奈は自分の部屋を探しながらそう呟く。
あと数分遅れていたらどうなっていたのだろうか。そう考えると怖くなった彼女だが、最悪の場合はまた走って屋敷に戻れば良いためそこまで思い詰める必要は無かったことに気付く。
「あ、ここだ」
寮はそこまで広くないため、里奈はすぐに部屋へとたどり着いた。
「お邪魔しまーす……」
彼女が扉を開けると、そこは至って普通の部屋だった。
何の変哲も無いベッドにテーブル、そしてこれまた特徴のない光源と窓と言った最低限のものがあるだけの、至って平凡な部屋であった。
しかし寮の一人部屋と言う事もあり、部屋のサイズはかなり小さい。
それこそ寝泊まりすることだけを考えたような大きさであり、下手に荷物を広げればそれだけで部屋の半分以上が埋まってしまうだろう。
とは言え、それは里奈にとってはあまり大きな問題では無かった。
何故なら里奈はあの時ルナに教えてもらったマジクスをきっちり習得しており、大体の荷物はそこにしまってあるのだ。
本当にこの魔法は便利で、整理の必要も無く、必要な時は取り出して使えば良いし収納する時は雑に放り込めば良いのである。
もはや旅に便利なだけではなく、普段使いにおいても最高に便利な魔法だと言えた。
現に里奈は最低限必要なものだけを取り出して部屋に置いている。
本来ならばもっと色々な物に部屋を専有されてしまうのだろうが、この魔法のおかげで彼女にそれは無いのだ。
それだけでHappyであることは、もはや疑いようが無いだろう。
こうして無事に寮にも入れた里奈は夕食とシャワーを終えると、明日の冒険者学校への入学に備えて早めに寝たのだった。
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