8 いざ冒険者学校へ
冒険者になると言うのは里奈にとっても悪い話では無かった。
魔法も剣術も限界突破している彼女にとって、冒険者として活動していく中で実践的な知識や経験を得られると言うのはまたとないチャンスなのである。
また、アルストのストーリー的にも冒険者になる価値は充分にあると言えるだろう。
と言うのも、アルストにおいてアルカは「勇者」なのだ。
そして勇者である以上はほとんどの場合、魔王との戦いは避けられない。
そうなれば戦死エンドへと向かう可能性が著しく高くなってしまうのである。
しかし冒険者になれば話は変わって来る。
冒険者として活動して、冒険者として名を馳せることで、アルカは勇者では無く冒険者であると世界に誤認させられる可能性があるのだ。
そうすれば戦死ルートから外れることが出来るのではないかと、里奈は考えていた。
「うん、私……冒険者になりたい……!」
そのため、彼女は二つ返事で冒険者学校への入学を決めたのだった。
――――――
それから少しして、いよいよ里奈の冒険者学校への入学日が迫ってきた。
「アルカ、本当に大丈夫なのか……?」
出発の準備を済ませた里奈にクラインは心配そうな顔でそう言う。
「もう、ずっとそれ言ってる」
そんな彼に対して里奈は呆れた様子でそう返した。
そうは言っても、いくら里奈がハチャメチャに強いとは言え彼女はまだ10歳なのだ。
過剰なまでに心配するのは当然と言えるだろう。
また、冒険者学校があるのは屋敷からそこそこ離れた場所にある町であるため、里奈は先んじて寮に入ることになっていた。
その点でも里奈のことが心配で心配で仕方が無かったのである。
「大丈夫よ、クライン。アルカは強い子だし、私とあなたの娘だもの。きっと上手くやっていけるわ」
「そうかだろうか……いや、そうかもしれないな」
クラインは自身にそう言い聞かせるように呟く。
勿論セシリアだって里奈の事が心配なのは変わらないだろう。
それこそ心の中ではクライン以上に里奈の事を思っていた。
だがここで変に里奈に心配をかけるような事をしても逆効果だろうと、彼女自身理解していたのである。
そんなセシリアの思いを感じ取ったのか、クラインも最後には笑顔で里奈を送り出していたのだった。
こうして二人に見送られながら屋敷を出発した里奈は冒険者学校のある町を目指して走り始めた。
と言っても屋敷から町までは馬車で移動しても丸一日はかかる。
間違っても何の準備も無い人間が走ってたどり着けるものでは無かった。
しかしそこは里奈のバカえぐい身体能力の見せどころである。
仮にも勇者の血筋である彼女が、よりにもよって剣聖と呼ばれた男に鍛えられたのだ。
その走力と体力はもはや常軌を逸したレベルのそれになっていた。
結果、本来ならば馬車で丸一日。徒歩でなら二、三日はかかるであろう距離を里奈は半日もかからずに走破したのだった。
そうして町に辿り着いた里奈は早速、冒険者学校の寮を探し始めた。
「確かこっちに……あれ、どこだろう……?」
しかし町の構造が思いのほか複雑であったためか、地図を見ながら寮を探すものの一向に見つけられずにいた。
そんな彼女に忍び寄る影が一人……また一人と増えて行く。
「……ッ!」
その気配に気づいた里奈は振り返った。
するとそこには見るからに賊っぽい姿をした男たちが立っていた。
そう、この町も決して治安が良いと言う訳では無いのである。
日が暮れ始めているこの時間帯に少し奥まった所で10歳の女の子が一人で歩いていれば、そりゃもう狙われるのも仕方のないことと言える。
それに彼女が狙われたのは何も襲いやすい少女一人だったからと言うだけでは無かった。
「……私に何か用ですか?」
「ああ、おじさんたち君のその装備にちょっとばかし興味があってねぇ」
リーダーと思われる男はゆっくりと里奈との距離を詰めながらそう言う。
これこそが彼女が狙われた一番の理由であった。
と言うのも、里奈が今身に着けている装備はそのどれもが高級品と言える代物なのである。
それこそ高ランクの冒険者が使っているような物ばかりであり、売れば王都に小さめの屋敷を建てられる程のお宝なのである。
それどころか中には相当にレアなマジックアイテムも含まれている程だった。
例えば里奈が首にかけているネックレス。
これは中級以下の魔法を完全に無効化する強力なマジックアイテムである。
彼女自身、既に上級以下の魔法への耐性を獲得しているのだが、それでも心配だからとクラインが持たせたのだ。
同様に彼女が付けている髪飾りもマジックアイテムであり、麻痺や毒などの状態異常への耐性を付与する効果がある。
これもまたネックレス同様、彼女自身が耐性を持っているのにもかかわらずセシリアが無理やり持たせたのだった。
そのほかにも色々なマジックアイテムで固めている里奈だが、特に目を引くのは彼女が腰に携えている剣だろう。
彼女の細い腰には似合わないゴツイその剣はいわゆる魔剣の一種であり、どれだけ摩耗しようが錆びようが折れようが、いくらでも勝手に自己修復をし続けると言うかなりヤバ目な代物である。
そんな訳で、今の彼女は歩くマジックアイテム博覧会になってしまっているのだった。
勿論、里奈自身はこれだけのマジックアイテムを身に着けることを拒否していた。
ゲーム知識と書斎で読んだ本によってこれらが貴重品であることは理解していたし、そもそも剣以外は今の彼女にとってはあっても無くても変わらないのだ。
しかしクラインとセシリアは重度の心配性であるため、こうして意味が無いのにもかかわらず大量のマジックアイテムを里奈に装備させてしまったのである。
里奈を守りたいがためにそうしたのだろうが、結局そのせいで賊に狙われやすくなってしまったのは皮肉なものだろう。
……もっとも里奈が賊程度に後れを取る訳が無いため、結局問題は無いのだが。
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