3 家族会議

「もしかして、アルカがあの魔法を……?」


 セシリアは流石にそんな訳はないだろうと思いながらも里奈にそう聞いた。


「うん……」


 一体どう返事すればいいのかと里奈は少し迷っていたものの、結局は正直に言うことにしたようだ。

 それが一番角が立たない選択だと、彼女自身もわかっていたのである。


「……そう、なのね」


 里奈の返事を聞いたセシリアは驚きを隠せない様子だが、それでも冷静に今の状況を受け止めようとしている。

 だがそうしようと思った所で簡単に受け入れられるようなものでも無いのもまた事実だった。

 何しろ三歳の子供が上級魔法を発動させたなどあまりにも突飛な出来事であり、前例が無さ過ぎるにも程があるのだ。


 もちろんセシリアも勇者の血筋と結婚した以上はそう言った特異な出来事に巻き込まれる事を覚悟していた。

 だとしても限度があると、セシリアは叫びたかったはずだ。

 そうしなかったのは彼女がそれなりに場数を踏んでいる熟練の冒険者だったからだと言えるだろう。


 その夜、屋敷へと帰って来たクラインを交えて、改めて話し合い……もとい家族会議が開かれることとなった。

 そしてセシリアから昼間の事を聞いたクラインの反応を見て、里奈は改めて凄まじい怒られが発生するのではないかと怯えていたのだが……。


「凄いじゃないかアルカ!」


 彼の口から飛び出たのはあろうことか里奈を賞賛する言葉であった。


「いやー、流石は俺たちの娘と言ったところじゃないか。この年で魔法を使えるどころか上級魔法まで習得してしまうなんてな」


 クラインは心の底から本気でそう思っていた。彼の冒険者としての精神がそうさせていたのだろう。

 自分たちの血を継いだ娘が想像以上の魔法の才を見せたのだから、それくらいテンションが上がってしまってもおかしくはないのかもしれない。 


「だって上級魔法だぞ? 王都の賢者ですらその境地に到達するのに数十年は必要だ。これはきっと将来は優秀な……」


「ちょっと、クライン?」


 だが今はそういうタイミングでは無かった。

 

「あ……あぁ、そうだな。オホン……」


 セシリアにジトっとした目で睨まれ、それまでご機嫌に話し続けていたクラインはわざとらしく咳払いをすると、真剣な表情のまま改めて話し始めたのだった。


「アルカ、上級魔法は少しでも扱いを間違えれば最悪の場合、村一つ吹き飛びかねない危険極まりない魔法なんだ。今回は無事だったが、下手をしたらこの辺り一帯が……そしてアルカ自身が大変なことになっていたかもしれない」


「……はい」


 クラインは優しく里奈に言い聞かせる。

 そして彼の言葉の重みを、彼女はしっかりと感じ取っていた。

 実際に熟練の冒険者として長いこと活動してきたクラインだからこそ、魔法の危険性をこれでもかと言う程に理解しているのだ。


「……まあ、なんだ。これから気を付けていけば良いってことだから、そこまで思い詰めることも無いさ。なにも魔法を使うなって話でも無いからな」


「そうよアルカ。貴方には魔法の才能がある。それを適切に育てていけばいいの」


「その通り、そしてその点で俺に良い考えがある」


 クラインはそれまでの真剣で重苦しい雰囲気を吹き飛ばすかのような、快活な笑みを浮かべながらそう言った。


「良い考え……?」


 そんな彼の言葉が気になったのか、里奈もまたそれまでとは打って変わって、明るく興味津々と言った表情でクラインの言う良い考えとやらを聞こうとしていた。

 とにかく強さが欲しい今の彼女にとって、更なる魔法の強化が出来ると言うことはまさに願っても無い幸運なのである。


「ああ、俺は過去に凄腕の魔術師と一緒のパーティにいたことがあってな。今でも魔法メールで連絡を取る程の仲だし、魔法馬鹿の彼女ならばきっと良い師匠になってくれるはずだ」


 そんな里奈に気付いているのかいないのかはわからないが、クラインは淡々と述べた。

 彼の言う良い案と言うのはつまるところ、里奈をかつてのパーティメンバーである凄腕魔術師の弟子にして魔法を教えてもらおうと言うものであった。


「魔法馬鹿……」


 しかしクラインの口から出てきた魔法馬鹿と言う言葉に里奈は少々不安を覚える。

 そんな人を本当に師匠にして大丈夫なのかと思ってしまったのだ。

 だがこの状況で彼の提案を否定出来るはずもなく、結局里奈はその凄腕魔術師の弟子として魔法の特訓をすることになってしまう。


 里奈が上級魔法を発動させたことでテンションをぶち上げていたクラインにすら、その人物は魔法馬鹿と言われているのである。

 その凄腕魔術師は一体どんな人なのだろうかと、不安で不安で仕方のない里奈は夜しか眠れないのだった。

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