4 超絶怒涛の凄腕美少女魔術師
あれから数日が経ち、とうとう凄腕魔術師と呼ばれた女性がルーン家の屋敷へとやってきた。
「こんにちは~」
屋敷の扉の前に立つなり、彼女は開口一番、これでもかってくらいに妖艶さたっぷりの声で挨拶をする。
その声はもちろん里奈にも届いていた。
少なくともその声を聞く分には「えっちな声の女性」と言った印象しか抱くことは無く、そこに魔法馬鹿としての要素は感じられない。
「おお、来てくれたか。まあまずは入ってくれよ」
出迎えたクラインが彼女を屋敷内へと招き入れる。
そしてそのまま客間に案内された彼女と里奈は出会うのだった。
――凄い美人な人だな。
と、思わず心の中でそう呟く里奈。
あまりにも彼女が美人であったために、どこか肩透かしを食らったかのような気分になっていた。
魔法馬鹿と言うものだから、てっきり「森の奥の魔女」みたいな姿を想像していたのである。
しかし見た目で人を判断してはいけないと言うことは理解していたし、身に染みて実感もしていた。
何故ならば、目の前にいる女性は里奈の全身を……それこそ頭のてっぺんからつま先の先端までを、時折深くしゃがみ込んだりしてまでベロベロと舐めるような視線で見ているのである。
その姿はあまりにも滑稽であり、「まともじゃない……」と直感的にそう思ってしまう程だった。
「アルカ君……だったっけ。君、凄い魔力を持っているね」
荒い息に、血走った目。
そんなあまりにも不審者が過ぎる状態のまま、女性は里奈にそう言った。
その様子はまるで好みの子を見つけた変質者だ。
「あっ……ぁぁ……」
「……ルナ、すまないがアルカが怖がっている。少し抑えてくれないか」
そんな彼女……ルナと呼ばれた女性をクラインが止めた。
三歳の幼児に対してあんなイカれた状態で話しかけていたのだ。
ここは彼の行動が正しいと言わざるを得ないだろう。
もっとも里奈が抱いている恐怖心は彼女に対してのものでは無く、前世の自分を思い出したことによるスリップダメージ的なソレなのだが。
ちなみにどうしてそうなったのかと言えば、前世の里奈が自他ともに認める重度のオタクであったことが関係している。
今のルナのような態度で可愛い女の子キャラを日々愛でていたのである。
その結果……。
――嘘でしょ!? あの時の私って、周りから見たらこうなの!?
……と、そう叫び出したい程にあの時の自分を客観視してしまっているのだ。
「そうね……。それならまずは自己紹介でもしようかしら」
そんな今にも感情を爆発させてしまいそうな里奈の警戒を解こうと、ルナはしゃがんで目線の高さを合わせた後、ゆっくりと自己紹介を始めた。
ナチュラルにそう言った気遣いが出来る辺り、子供の扱いには慣れているのだろう。
「私はルナ。昔は君のお父さんと同じパーティで冒険者をしていたのよ」
「私はアルカです、よろしくお願いします」
「あら、まだ三歳なのに随分と礼儀正しい挨拶をするのね……?」
三歳にしては少々行儀が良すぎる里奈のその対応に、ルナは少しだけ驚いていた。
と同時に里奈は目に見えて焦り始め、彼女から目をそらす。
明らかに今の挨拶が三歳のそれでは無いことに気付いたのだ。
「……まあでも、クラインとセシリアの娘だものね。これくらいは普通か~」
「え……?」
しかし里奈の焦りとは裏腹に、ルナは今の異常な出来事を軽く流してしまう。
「そうそうクラインと言えば……彼は私の事を凄腕の魔術師って言うのだけど、それは間違いね。何故なら私は超絶怒涛の凄腕美少女魔術師だから」
それどころか全然関係ない話を始めたうえで、かなり癖の強い自己評価を何のためらいもなく里奈へとぶつけていた。
ただでさえ彼女はどこか浮世離れした雰囲気を纏っているのだ。
そこでこんなことを言おうものなら、「このルナと言う女性は、おおよそまともな思考回路をしていないんじゃ無いか?」と、里奈にそう思われてもおかしくはないし否定も出来ないだろう。
「おっとっと、話がそれたわね。じゃあ互いに自己紹介も済んだところだし、そろそろ本題に入ろうかしら」
それを彼女が理解しているのかはわからないものの、少なくともちゃんと話をする気はあるらしい。
その証拠に、ひとまず話を本題に戻すためにクラインへと視線を向けていた。
「……あぁ、そうだな」
ルナのその視線に気付いたクラインが口を開く。
「メールでも伝えているが、ルナにはアルカの魔法の師匠になって欲しいんだ。魔法の研究で忙しいのは重々承知だが……まあでも、来てくれたってことはそう言う事なんだろう?」
おどけた様子でそう言うクライン。
わざわざこんな辺境にまでやってきている時点で、答えは一つしかないのである。
「あら~お見通しなのね。でも確かにその通りよ。最初からそのつもりでここに来たの。私としても彼女の事は凄く気になるからね」
「そうか……感謝する。アルカの才能は常軌を逸しているみたいだからな。しっかり育ててあげたいんだ」
「任せておきなさい。私が責任をもって、最高で最強の魔術師にしてみせるわ」
話がまとまったのか、クラインとルナの二人が握手を交わす。
それはつまり、里奈がルナの弟子になると言うことが決定したと言う事だ。
一方で里奈自身は出来ることならこんなヤバイ人の弟子にはなりたくはなかった。
ルナが自分を見てくる目が明らかにおかしいのだからそう思うのも当然だろう。
しかしそうは言っても、忙しい中で時間を作って屋敷まで来てくれた彼女をこのまま追い返すことなど里奈には出来なかった。
それに父が自分のために色々と考えてくれていることも理解していたし、それに対して感謝もしているのだ。
その結果、拒否なんて出来るはずもなく、里奈は正式にルナの弟子として特訓をすることになってしまったのだった。
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