第3話
シエルが集めたオーロラの
映像を見ている間に気が付いたことを更に書き連ね、みるみる間に空白のページが埋まっていった。
(見たままのガン攻め。ランスロットの性能が高すぎて、何振っても一方的な押し付けになってる……。何よりも一瞬で相手の懐に飛び込む高い機動力、そこからの強烈な突き刺しは必殺技と言っても過言じゃない)
オーロラの奏者としての技量の高さに感服しながら、目を皿にして映像データを何度も見る。
(これがオーロラ様の必勝パターン、つまり手癖だとすれば……)
しかし映像を見るだけで勝てるのであれば、誰だって苦労しない。
そんなことは十分に承知していた。
夜になるとソレイユはこっそりと寮を抜け出し、人気のない庭園へ出かけていた。
寮を勝手に抜け出す行為は勿論、許可されていないが、ここはお嬢様の集う場所。
そんな蛮行に及ぶ者はこの学院にはいない。監視という行為そのものが野蛮である。というのが、共通認識であるが故にか、監視カメラの類は一切存在していなかった。
だからソレイユが抜けだしたとしても、誰にも気が付かれることはないのだった。
(騎士は精神の力。パッドではなく、イメージで動かす自機)
薔薇を照らすライトだけが頼りの暗闇の中、ソレイユは目を閉じて自身の内面と向き合う。
胸の奥深くに灯る金色の光。もっと輝けと強く願ったその瞬間、ソレイユの体を眩い光が包み込んだ。
しかし、その光は弾けることなく霧散して消える。
すぐ側から、草木を分ける音が聞こえたからだ。
「どなたかしら?」
物音がしたほうへ振り返りながらソレイユは内心、気が気ではなかった。
これが生徒であればまだ誤魔化しようがあろうが、教師であれば一巻の終わりである。
「ごっ、ごめんなさいっ、邪魔をするつもりはなかったんです……」
「シエル……」
草むらから現れた人影がシエルだと分かると、ソレイユは盛大に胸を撫で下ろした。
落ち込んだ様子のシエルの側へ寄ると、ソレイユは頭や制服に着いた葉っぱを取り払ってあげた。
「よく私がここに居ると分かりましたね」
「私、お姉さまが心配でお部屋まで尋ねに行ったんです。そしたらお姉さまが居ないから私、びっくりしてしまって……」
「それでここまで来てくれたのね。ありがとう。そして心配をかけてしまって、ごめんなさい」
申し訳なさそうにソレイユに、シエルはぶんぶんと頭を横に振って違うのだと答えた。
ソレイユが謝ることなど、何一つないと言いたいのだ。
「あのっ、お姉さま! 私を、お姉さまの
「そんな……。申し出はとても嬉しいけれど、貴女、戦いはお嫌いでしょう? 無理をしなくて良いのよ」
「私、おっしゃる通り戦いは嫌いです。けどっ、お姉さまのお役に立ちたい! お役に立てるなら、
シエルの必死な思いを目の当たりにして、ソレイユは胸の奥に込み上げる熱を感じていた。
自分のために協力を申し出てくれる友がいる。
それは前世でゲーム攻略を共にしきた仲間たちとの日々を彷彿とさせるようで、ソレイユは懐かしさに自然と笑みが浮かんでいた。
「分かりました。正直、一人でイメージをし続けるだけでは限界があったの。貴女の協力、とても助かるわ」
「お姉さまの為なら喜んで。それに私、お姉さまの騎士を見てみたくて」
「あぁ、そう言えば、貴女にも見せたことがありませんでしたものね」
ソレイユの周りに風が吹く。
一度は消えた光が再びソレイユを包み込み、今度は大きく膨れ上がった。
光の中でソレイユが淡く微笑む。
「御覧なさい。これが私の騎士よ」
光の渦の中から現れた騎士に、シエルは目を見開いて言葉を失った。
月の光を身に宿した様な、黄金の鎧を纏う騎士。
深紅のマントをたなびかせ、手に持つ銀の槍が鋭く闇夜に煌めく。
兜に付いた馬の尾を連想させる立派な羽飾りが、風に揺れていた。
「これこそが我が信念の騎士、ドンキホーテ」
彼の騎士の名を関した物語は実に有名であろう。
物語と現実の境界線が曖昧になった男の物語であるが、ソレイユにとっての騎士は彼の物語がイメージの根底に存在した。
例え幻想の中を彷徨っているのだとしても。
誰にも理解されぬ愚かな行為であったとしても。
己の騎士道を貫く姿は間違いなく強者なのだ。
シエルはソレイユの黄金の騎士を前にして、ただただ見惚れるしか出来ないでいた。
奏者と騎士。その二つの美しさと凛々しさを形容する言葉が、見つけられなかったのだ。
「さぁ、シエル。お相手を願えるかしら」
「……っ、身に余る光栄です!」
月夜に二体の騎士が舞う。
勝利の二文字をその手に得る為に。
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