第四話 小さな子供(ロリ)を見捨てるわけにはいかない
親愛なる父と母とその他もろもろへ
入学式の日から三週間が過ぎ、学院生活にも段々と慣れてきました。三週間のうちにもいろいろなことがありました。
特に記憶に残っているのは、魔法訓練です。その訓練で、僕には風魔法と土魔法の適正があることがわかりました。お父さんとお母さんの才をしっかりと受け継いでいる証拠だと思います。ところで淫魔法が四大魔法を扱えるとか扱えないとかの話はなんだったのでしょうか?
淫魔法といえばシャルカのことですが、なかなか私には心を開いてくれません。まあそれも当然のことでしょうが。
ですがシャルカもシャルカで好きに行動しているようです。週に一日二日は朝帰り。じゃじゃ馬娘にもほどがあります。こっちは、いつシャルカの変身魔法が解けやしないかとヒヤヒヤしていますよ。
ところで今日は授業の後に、クラブ活動の体験会があります。僕も父上と同じく、冒険者に興味があるので冒険者クラブを試してみようと思います。
楽しみです。ではまた、今度の手紙で会いましょう。
イシュタル・トーマス
◆
ふう、今日も一日授業が終わった。
学校生活は順調だ。俺が性者とかいう変な異名を持っていることも周りのみんなには知られていない。だが一人、まるでラノベ主人公のように目立っている人物がいる。
その人物こそ、リリア・ナシュア、そうあの96番、魔力検査で黄金の光を煌めかせていた女の子だ。そしてナシュア家の三女、学院長の妹さんだ。
そうそうそういえば、その彼女こそ勇性伝説の勇者様であるらしい。
黄金の煌めきは勇者の証なんだとか。
それにそれに勇者の逸話は勇性伝説以外にも数多く残っているらしく、俺なんかとは違い、クラスではとても目立っている。良い目立ち方とは言えないが……。
というのも、彼女は極度の人見知りか、プライドが高いのか、笑っているところも、ましてや誰かと会話しているところすら見たことがない。
まあまあ噂話はこれくらいにしてっと。そろそろ冒険者クラブに行きますか。
てか、シャルカはどこ行った?
「……ねぇあんた、私と今夜、イイコト、しない?」
はぁ、この声はシャルカだ。
声のした方は教室の外。男漁りをするなら、せめて見えないところでやってくれぇ……はぁ。
やれやれ、その逆ナンされてる男の子はっと。
教室の外を見る、そこにいたのは……俺と同い年くらいの男の子ぉ。いや、それなら俺でもええですやん!!!!
まぁ主と眷属がただれた関係になるのもなぁ……。痴情のもつれほど醜いものはないからな。……って言っときながら、俺、痴情の痴の字すら経験ないけどね〜。
はぁ
なんか虚しくなってきた。……それでもさすがに俺と同い年の子。サキュバスの毒牙にかけるわけにはいかない。……声をかけるか。
「シャルカ! 人様に迷惑をかけてはいけないよ」
俺の声を隠れ蓑に、ナンパされていた少年はささっと姿を消す。
チッ。
「あんた邪魔すんじゃないわよ!」
シャルカは声を張り上げる。張り上げたその声は怒気がこもっている割には凛としていた。だが、その声の綺麗さゆえに周りに響く響く。一瞬で視線が俺らに集まる。
「……ちょっと、二人きり以外の時は、兄さんって呼んでくださいよ。一応、妹ってことになってるんですから……」
周りには聞こえないようコソコソ話だ。耳をぴくぴくさせている彼女もとても可愛らしい。
「……わかったわよ……おにぃ、さん///」
耳をポリポリかきながらお兄さん呼びするシャルカたん、かわえぇぇえええぇ。
ゲヘゲヘ、ウヘヘ。
ゴッゴッゴッ。
ゲヘゲヘしてただけなのにまた蹴られたぁあああ(泣)
「あんたぁ! やっぱきもい!!!!!」
◆
____
__
_
スタスタスタ。
「どこに行ってるのよ」
きもいとか言っておきながら、なんだかんだ話しかけてくれる。ういやつめ。
「そろそろだよ」
「だからどこに行ってるのかって聞いてるの!」
ほんとキレてるなあ。カルシウム不足か? もっと牛乳を飲め! そしてもっと成長しろ! あわよくばボンキュッボンに……。
「お、着いたよ」
「冒険者く……らぶ?」
ラブだなんて熱烈だなぁ。お兄ちゃん参っちゃう。
「そうこれから僕たちはここで活動をしていくかもしれないんだ」
スーハー。ワクワクする。俺の冒険心には火がついたばかりだ。
よし、行くか!
ガラガラガラッ。
「おっ、こんにちは、新一年生かな?」
大柄な男性だ。赤い髪に紅蓮の瞳。その声と姿からは、元スポーツ選手の熱岡修造と同じくらいの熱量を感じる。
す、すごいな。自然と後退りしてしまいそうだ。
「こ、こんにちは。今日はよろしくお願いします。イシュタル・トーマスです」
「これはこれはご丁寧に。私は副クラブ長のトガラシ・ホムラ、五年生だ! それで……横の可憐な少女はどなたか?」
なぁに色目つかっとんじゃぁい。うちのシャルカちゃんに! お前はラケットの素振りでもしておれ!!!
「あら、可憐だなんて。初対面の相手にお世辞を言うものではありませんよ//。本気にしてしまうではありませんか////……紹介が遅れました。私、シャルカ・トーマスと申します」
赤面し、悶えながらそう言う彼女は、男心をこねくり回してくる。
くそぉこの小娘、猫被りおってからに。……それになんださっきから、横目でジィーーとこちらを見つめてくる。してやったり、てか?
そうだよぉ、効果てきめんだよぉ!
「シャルカ……良い名前だ」
なに頬をピンク色に染めてんだぁ、このやろぉ。
「シャルカ嬢、失礼する」
そう言うと彼は、颯爽とシャルカの前へと歩みを進めていた。
ふぅー、と深く息を吸ったかと思えば、彼はおもむろにシャルカの手をとり口づけをする。
「私はホムラ家、長男トガラシ・ホムラです。以後お見知り置きを」
上目遣いでささやく彼は熱血漢という感じではなく、爽やかイケメンだ。
流石のシャルカもこれにはガチデレの模様。
表情は平静を装っているが、耳の赤みは隠せていない。
先輩のイケメンっぷりをひがんでも良いのだが時間の無駄なので、これから待ち受けている冒険に想いを馳せることとしよう。
ところで……うーんこの教室にはいないのか?
「あのぉ、ホムラ先輩。ナシュア、クラブ長はどこに?」
そうここ冒険者クラブはナシュア家の次女、ルージュ・ナシュアさんがクラブ長を務めている。
「あぁルージュさんなら生徒会の方へ行っている。あとで合流する予定だ」
ガラガラガラッ。
背後で扉が開く。
「こ、コンニチハ」
聞き覚えの無い声だ。ひんやりしている。ほんのり梅のかほりがするような清涼感のある声。一体誰なんだ。
姿を見ようと首を回しかけたその時、回さずとも彼女の正体がわかる。
「り、リリア・ナシュアです。本日は、よ、よろしくお願いしましゅ!!」
初めて声聞いたぁあ。小柄な体型に似合う良い声だ。そう、この方が勇者こと、リリア・ナシュアさんだ。
「これはこれは! クラブ長の妹さんではないか! いやぁ心強い!」
「あ、ドオモ、姉がいつもお世話になっています」
深々と礼をする彼女は怯えているようにも見える。
「では全員揃ったようなので、説明を始めたいと思う。今日は実際にクエストに取り組んでいく。だが、安心してくれ、クエストと言っても簡単な採集クエストだ。もちろんクエストには我々上級生が同行する。安心してくれ。では行こう!」
◆
はぁはぁ、いい感じに息が上がってきたな。
「では、そろそろ〜二手に分かれる! ー列の前半分と後ろ半分で分かれよぉー」
どうやら二手に分かれるらしいな。
シャルカは後ろの方にいたというのに、ホムラ先輩が強制的に前へ連れて行った。
俺は列の後ろの方にいたので、もちろん後半組だ。シャルカとは別行動になる。
「じゃあー二番隊集まって〜」
二番隊? あぁ後半組のことか。
「改めてよろしく、五年生のシェル・アルフォンソです。今日は二番隊のリーダーを務めます。……なにか質問ある子……いる? ……いなさそうだ……ね。じゃあ、行こっか」
……お、てかナシュアさんも一緒の班だ。お姉さんたちのこともあるし、気にかけておこう。
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クエストの目的地である森に入って十五分ほどたつ。1.5キロメートルと言ったところか。行く手を阻む植物や、足元を脅かす木の根っこが増えてきた。
てか、今進んでんの獣道じゃね? 大丈夫か? まぁ杞憂か……。
イテッ
石につまずいた。その時だった。
ピューーーンポーーーーーン
なんだなんだ花火か?
火薬が弾けるような音が空から聞こえる。
「まずい、避難信号だ!!!!」
え、避難信号? パッと空を見上げると……左の上のほうに黄色い煙の一団が見える。
あれが避難信号か!
「みんな逃げるよ!」
慌てて、来た道を戻るように走る。
だが、もう遅かったのだ。
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ダン……ダン
ココロ、ヒカレテクじゃなくて。あれ? 地面が少しばかり、揺れているような?
ダン、ダンダン
気のせいではない。後ろから振動が来る。
列の最後尾は俺だ。みんなはまだ気づいていない。
見てみぬふりもできるが……命に関わることだから流石に確認するか……一応、一応な。
ホラー映画のヒロインばりにゆっくぅーーりと首を回す。
来てる。……来てる来てる来てる!
「せ、セセセセンパァイ! なんか赤いクマみたいなのが来てまぁす!!!!」
俺の声が響くと、皆がこちらを振り向く。そしてしばらく経つと、これまで順調に前進していた一列は動きを止める。
リーダー先輩が止まったようだ。
「お、オワリダ。クリムゾンベアーだ」
え、終わり? クリムゾン? なんて?
「みんな、クリムゾンベアーだ!!!!!!!! 逃げるぞ!!」
再度、列は動き出す。……列はリーダー先輩を皮切りに分裂して二つに分かれる。後ろの下級生二人が置いてかれている。
そう俺ともう一人。ナシュアさんだ。
危険が少ないはずの森のため、定石どおり年少者を一番前にしてペースメイクし、歩いていたのが仇となった。
今や俺たちが一番後ろだ。
「ちょ、センパーーーーイ!!! チョ、マテヨ」
呼びかけるが、先輩は振り向くだけでそのスピードを落とさない。むしろ上がってる。
え、俺……このまま終わるの?
嘘だ……。嫌だ嫌だ嫌だ。まだ生まれて十二年だ。前世含めたら、二十何年だけど。
嫌だよ……。
死にたくない……。
コテッ
え? 嘘。前の子、転んだ……。
いや、逆に吉兆か? ナシュアさんのせいで速く走れなかったところあるし……。
見捨てればワンチャンある。この子が襲われてる間に……
でも、でもでもでも……この子も俺と同じ十二歳、……小さな子供……!
しかもロリ(重要)なんだよおおおおおおおおおお!!
くそくそくそ、俺のばか! 死ぬかもしれないってわかってんのにっ……。
体は勝手に動いていた。ただ一人の、声くらいしか知らない女の子を、助けるために。
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