第2話
「みこ兄、自分で歩けるよ」
自分より倍以上ある男に抱き上げられて、急に高くなった視界に、由良は不思議そうに首を傾げた。
危ない道でもないし、まだ疲れてもいないのに。
整った容姿でこてんと首を傾けた動作は可愛いとしか言いようがない。
真っ赤な髪の目つきの悪い男に抱き上げられながら、周りにも一目で不良と言える見目の男たちに囲まれているというのに物怖じ一つしない少女。
それは周りから見れば異様なことだった。整った容姿も合わさってまるで精巧な人形のようだ。
「俺がこうしたいんだ、由良」
お前のためじゃなく俺のわがままだ、と赤い髪の男はどこかに向けていた鋭い視線が嘘のように由良に甘い顔を見せる。
その顔をじっと見つめて、由良もへにゃりと表情を崩した。
カシャリ。二人の傍で鳴り響いたシャッター音に、由良がパチクリと瞬きを繰り返す。音の鳴った方へと視線を向ければ、蕩けるような表情を浮かべた中性的な顔立ちの人間がスマホのカメラを構えて悶えるように立っていた。
「由良まじ天使だわ」
「あ?おいみちるてめぇ何勝手に由良の写真撮ってんだよ」
「えー、いいだろ別に。由良は尊のじゃねぇし」
黒い髪のどこか色気を感じさせる少年が煽る様に嘲笑を見せれば、赤い髪の男は口の中で吐き出しそうになった暴言を噛み締める。腕の中に何よりも大切な存在を、殴る為だけに手放すことは出来ない。今更だと言われるかもしれないが、汚い言葉も聞かせたくは無い。
耐えぬいてこぼれ落ちた舌打ちに、小さな手が頭に伸びてくる。静かに撫でられるその子供らしくない冷たい手の温もりだけで、男の心の苛立ちは消え去った。
「おいみちる。それ俺にも送れ」
「湊さんちゃっかり催促っすか……」
「んだよ。透だってほしいだろーよ」
「あ!俺も欲しいっす!!」
金髪の男の一言に銀髪の男が苦笑を零し、白金の髪の少年が挙手をしながら催促する。
「んだ、てめぇら。俺の由良だっつってんだろ」
「いや、だから尊のじゃねぇし」
不良に恐れられる不良集団、霞。
その中心にはいつの間にか一人の少女が加わった。
霞の姫には手を出すな。
小さな姫には近づくな。
霞に関する様々な憶測と噂の中。絶対的な注意書きが増えたのはいつからだったか。
常に情報が不確かな霞と言う存在。
ただ一つ、小さなお姫様が増えたことだけは誰もが知る事実だった。
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