彼らと彼女とプロローグ

第1話

霞と呼ばれる暴走族がいる。


正確には暴走族だとか、チームだとか、そういう存在ではないけれど。

居場所がない者たちが集まっただけのその場所は、集団と言うにはあまりにまとまりがなさすぎる。

個々の存在がただ一か所に集まったに過ぎない。


最初は名前すらもなかった。役職もなかった。

ただ彼らは常に圧倒的だった。世代が変わってもそれは変わらず、絶対的な存在として君臨し続けた。


強く確かにそこに存在しているのに、詳細が不明。実態が掴めない存在。そんな彼らを誰かが霞と名付け、彼らは霞と言う集団になった。


少しだけ暴走族やチームに近づいた霞だが、それでもまとまりはない。だからこそ掴めない。誰も勝てない。


情報すらもまともに掴めない存在が霞だった。


***


このときの霞の総長は鮮血の狼と言う通り名でよばれる男だ。

真っ赤な髪を振り乱して暴れる男は歴代の霞の中でも最強と言われている。

正に泣く子も黙る不良だった。


「な、なあ。あれ、霞だよな」

「ああ。先頭にいるの鮮血の狼で間違いねぇ。周りにいんのも幹部連中だし……珍しいな」


誰もが知っている顔ぶれが揃って肩を並べて歩いている。それは周りからすれば珍しい光景だった。

霞は基本的に群れない。基本は単体行動が多い。チームなんて物ではなく統率なんて言葉は不釣合いな存在だ。

他の人間といることが全くないわけでもないが、仲良く歩いているように見える姿というのは、すれ違う人間が全員見つめてしまうほどにかなりの珍しさだった。


「げ。あれ六条じゃねぇか?目合わせたら殺られんぞ」


夕方の繁華街。

周りの人間たちは道路を堂々と闊歩する霞の光景に警戒心を抱きつつ遠巻きにみつめていた。


その中心。


さらに見慣れないそれに、こそこそと話をしていた男たちは目を見開いた。


「お、おい。なんだあれ」

「俺の見間違いじゃねぇのか……」


ごしごしと目をこすってもう一度見ても変わるわけもなく、男たちは顔を見合わせた。


「霞のお姫様だろ」


後ろから聞えた声には振り返らず、ただ一人に視線を集中させる。

そこにいるのは紛れもなく一人の少女だ。


確かに不良グループが姫と言う存在を作ることは珍しくはない。

珍しくはないが。


「いや、姫って……。どう見ても無理があんだろ……」

「小さくね?」


どう見ても少女は幼い子供だった。

少女と言うより幼女だ。


「普通姫つったら総長の女とか幹部の女じゃねぇの?」

「黙っとけ。下手に突っ込むと命がねぇぞ。相当惚れこんでるって噂聞いたからな」


容姿の整った少女を囲むようにして歩いている霞。

霞は普段から常に噂の的だ。通常でも目立つ。

それが一人の子供を連れて楽し気に歩いているなんて、どう見ても異常事態で不可思議な光景だった。


「うわ。おい、見ろよ、あれ」

「あの鮮血の狼が、ガキを抱っこ……?」

「泣く子も黙る総長様が……?」


そこでぎろりと睨まれるた彼はびくりと肩を揺らした。視線を向けてきたのはもちろん泣く子も黙る鮮血の狼様だ。

それどころか他のメンバーたちにも射殺されそうな視線を向けられ、男たちは慌てて目をそらした。

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