第3話 プロローグ

 エーデル山脈が連なりその山系からの伏流水はエルデ湖の湖底より湧水となりエルデ川流れこみ幾つかの支流に別れて、アスラ海に向かって流れていく。エルデ川を挟んで広大にエルデ高原は広がっていた。そのエルデ高原の真ん中より北側の位置に支流を見下ろせる高台にオーデンス王国の城郭がありその周りには人々が生活する街が点在していた。エルデ高原は、山の恩恵を受けた緑豊かな土地が広がり、麦畑が多く昔より農耕で栄えていた。また、北の山脈の麓には鉱山も多く分布していた。

 オーデンス王国は、エルデ高原の北側のエーデル山脈の間治める王政で、オーデンス国の代々の国王は、Ωがおさめている。オーデンス王国も昔はαが国を治めていたが、権力を振り回して他国への進出を企てて国を弱体化させてしまった。それを再興したのは、αの弟のΩであった。彼は、『オーデンスのΩ』と呼ばれて、豊かな教養と統率力を持ち、オーデンス王国のαの騎士も敵わない程の強い意思があり、他国からの侵入にも屈せずに騎士団を率いた。その為に領民から崇められて信頼されていたのであった。

 オーデンス王国の豊かな土地を狙う侵略者は後をたたず、特にエーデル山脈の反対側に君臨する大国の攻勢は激しく、好戦的でない国民にとっては死活問題であった。

 それでも土地の利を生かして防衛していたが、度重なる侵略に国力の減少などを心配する声も多く、国王である『オーデンスのΩ』も悩んでいたのであった。

 オーデンス国は南側の隣国であるアスラン王国とは代々エルデ川の恩恵を受けている者同士で争う事は無く、これまでもアスラン王国はオーデンス王国を支援してくれていた。

 ある年の冬始め、オーデンス王国の王太子リーヤンはエルデ川のアスラン王国境の近くまで狩猟の為に共を連れて遠乗りをしていた。その時に数人の者に追われている男と遭遇して、助けたのであった。彼は傷ついていた為近くの出城に連れて行き手当をした。その後、リーヤンはオーデンス城に戻ったが、出城に残した彼の事が忘れられなかった。

 それから間もなくオーデンス王国は、リーヤンが国王となり、3年後にアスラン王国の即位式に招待されて行く事になった。アスラン国王ビリーは数年ぶりに会うあの日に出会った手負いの彼であった。美しいΩが雄雄しいαと再会した。2人は見つめ合って再会を喜ぶのであった。リャーン国王はオーデンス国の窮状を訴えて、共闘して欲しいと持ちかけた。ビリー国王には異存は無く、共和国としての立場で協力することが決まった。

 2人はあっという間に、惹かれ合って番の約束を取り交わしてしまうのであった。

 『オーデンスのΩ』は、番の子を2人孕む、産まれてくる子供はいつもΩとαの子供1人づつであった。リーヤン国王とビリー国王にも2人の子供が生まれた。Ωの男の子はオーデンス国の王太子となり、もう1人αの男の子はアスラン王国の王太子となった。

 リーヤン国王は、一国内に2人国王がいる国は破滅しか生まないと考え、Ωが、国王となってオーデンスを支えるより、アスラン王国の臣下に下り、オーデンス公爵としてアスラン王国だけでなくオーデンスの民も含めて支えて行く事を決めた。

 ただし、エルデ高原の所有者はオーデンス一族が持ち、恵みはアスラン王国との折半とし、北の大国に対抗する事をビリー国王と決めた。

 オーデンス公爵家をアスラン王国は建国の祖の同志として敬い、協力し合いながら北の大国に対抗する騎士団の砦を築いて行った。そして、この2つの家系が再び交わることをしない事とオーデンス公爵家に何か不測事態が起きた場合の契約を結んだ。

 ところが、今から200年前にオーデンス公爵家を悲劇が襲った。次代の当主が暴漢に襲われ、無理矢理番にされてしまう事件が起きたのだ。望まぬαの子供を孕んでしまった次代のΩは双子を産むとオーデンス城の城壁から身を投げた。オーデンス公爵家の当主は、かねてよりの契約通りにエルデ高原の所有権をアスラン王国と共有とした契約を履行した。この事でオーデンス公爵家の持つエルデ高原等の権利を守り、第三者には勝手に動かせなくなった。そして、今回の事で世の中を騒がせた事の責任を取って公爵家より伯爵家への降格を願い出た。アスラン国王はそれは聞きどけられないと固辞したが当主の意思が固く代案として200年後には公爵家として復帰する事とした。

 それ以降もオーデンス家は建国の祖としてアスラン王国では尊敬されて今に至る。

 今、その200年の契約終了が目前となってきた。その渦中にいる『オーデンスのΩ』がリュウール・オーデンスである。

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