よりどころ

星之瞳

第1話

「ただいま」返事は無い。それはそうだ俺は一人暮らしなんだから。

数か月前までは元カノと同棲していた。俺が仕事から帰ると家には明かりがつき、夕食が用意してあった。俺は結婚するつもりだったが、元カノはそうではなかったらしい。

『いい人出来たから、さよなら』そう言うと荷物をまとめて家から出て行った。

突然の事に俺は茫然し追いかける気にもなれなかった。

それからは、家に帰ると元カノと暮らしていたころのことが思いだされ、家に帰るのが億劫になることもあった。

「虚しいな」そう独り言を呟いた。


ある金曜日の帰り道。道端でか細い鳴き声がする。声をたどると小さな子猫が道の隅で震えていた。俺は見捨てることが出来ず。子猫を連れて帰った。

洗面台にぬるま湯を溜めて子猫をゆっくりと洗った。洗い終わるとタオルで包んでよくふき取るとドライヤーで乾かした。


使わない皿に水を入れると子猫は「ピチャピチャ」と音を立てて水を飲み始めた。そして飲み終わるとそのままゴロンと横になって寝てしまった。

俺は用意した段ボール箱にタオルを引いて子猫を入れその上から柔らかいタオルと書けてやった。俺は子猫の寝顔を見ながら『この子飼えたらいいな。明日動物病院に連れて行こう』と思った。


翌日俺は子猫を布に包んで動物病院に連れて行った。診察の結果、

「異常はありません。生後数ケ月の女の子ですね。カルテを作りますのでこの子の名前を付けてください」

名前ね、灰色でちょっとアメショーに似た毛並み。俺はしばらく考えて

「グレイで」

「グレイですね。あなたの名前は浅間勇実あさまいさみさんですね。この子飼うんですよね」

「はい、そのつもりです、借家ですがペット可なので大丈夫です。」

「それでは、一端こちらで預かりますので受け入れ準備をしてください。準備が整ったら迎えに来てください」

「解りました」俺は病院から貰った必要な物を書いた書類を持って。買い出しに出かけた。

色々と買い物をして、管理会社に猫を飼うことを連絡して許可を取った。マンションの一室をグレイの為に整えた。受け入れの準備が済むとグレイを動物病院に迎えに行った。


それから俺の暮らしは一変した。何と言ってもグレイが中心。一部屋に必要なものを全て整え、俺がいないときにはグレイをその部屋から出さないようにした。帰るとまず、グレイの部屋に行きドアを開けそして俺のいる間は自由に行き来できるようにする。

グレイは俺が帰ると寂しかったのか俺にまとまりついた。グレイを膝に乗せて撫でていると心が癒されていく。同僚には『付き合いが悪くなったな』と言われたが保護猫の事を話すと納得してくれた。


そして俺はSNSにグレイの事を投稿し始めた。猫仲間も出来て俺は充実した毎日を送るようになった。


今ではグレイの部屋のドアを閉めることは無い。グレイは俺が帰ると走り寄ってきて甘えた声を出す。俺はグレイを抱き上げて頬ずりする。グレイは俺にとって心のよりどころになった。


もう家に帰るのがつらいことは無い。すべてグレイのおかげだ。











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