第2話 遥に女の子を紹介する?

遥は朝目を覚ますと、最初に目に飛び込んできたのは、見慣れたあのイケメンの顔だった。


理人はもう起きていて、じっと彼を見つめていた。その眼差しは深く、どこか意味深に感じられる。


「ちょっと、何で見てるの?」


遥は理人を押しのけ、心臓が激しく鼓動しているのを抑えようとした。


「これ、どこのホラー映画から学んだ目覚まし方法なの?」


理人はにっこりと笑いながら答えた。


「高校の時より、睫毛が0.01ミリ長くなった気がしてさ。」


「……」


遥は背筋を伸ばしながら、まだ寝転んでいる理人に足で軽く蹴りを入れた。


「寝言は寝て言え、授業に行かないといけない、起きるから足を曲げて。」


理人は足で遥の足首を引っ掛け、ゆっくりと引き寄せた。


「何急いでるの?一緒に行こうよ~」


**********


遥と理人は同じ専攻ではなかった。遥は法律で、理人は経済の専攻。


大学に入学した時、理人はなぜか突然遥がいるシェアハウスに住み込み。そのゆえ、大学生活が始まってから、顔を合わせることが多くなり、常に見かける存在になっていた。


今日は授業の10分前に教室に入った遥の横には、またもや理人が一緒だった。席を見つけて座り、前の席に座っていた女子は面白そうに冗談を言った。


「遥、また家族を連れてきたの?」


「そうだぞ」


遥が答えるよりも先に、「家族」という言葉に反応した理人が先に答えた。


「遥と分かれると、どうしても寂しいか~ら~」


遥は理人を一瞥し、理人は笑って口を閉じた、机に伏せて次の授業の勉強をし始めた遥を見つめた。


理人はこの授業を取ってないけど、彼が教室に来ることは、もうクラスの誰もが慣れっこになっていた。授業のない日は、必ずと言っていいほど、遥のそばにいる。八神理人という大学一のイケメンが姿を見せ、遥の隣に座って一緒に授業を受けるのが定番となっていた。


授業が始まると、教室は静かになった。遥は真面目に勉強に取り組んでいたけど、隣に座ったまま何もせず、ただ彼をじっと見つめている理人の存在にはなかなか集中できなかった。何しろその相手は、彼が密かに思いを寄せている相手だからだ。


遥は手を伸ばして、理人の目を覆い隠した。そして小さな声で言った。


「よそ見しないで、ちゃんと授業に集中して。」


理人は浅見遥の手を握り、彼の手を自分の膝に乗せた。それからようやく視線を外した。


授業が終わると、次の授業がある理人は席を立った。


「じゃあ、これで行くよ。俺がいない間に、お前のことが好きな女の子にちょっかいするなよ。せめて俺がいる時にやれ。」


遥は手を振って、理人に「さっさと行け」と合図した。理人が教室のドアを通り抜ける前に、遥は一瞬その背中を見送った。

……もし理人が彼の本当の気持ちを知ったら、こんなことを言ってくることはないだろう。

遥は苦笑いを浮かべた。もし自分が本当に女の子を好きなら、こんなふうに心を悩ませることはなかっただろう。毎日ビクビクしながら、自分の本当の気持ちがばれないように隠して……


**********


今日授業が全部終了した後、理人は法学部の建物に向かうことなく、バスケコートに足を運んだ。


最近、各学部間でバスケットの試合が行われていて、今日は金融学部対法学部の試合。理人も浅見遥もバスケットボール部のメンバーで、理人は特に準備することなく、ただコートで待っているだけでよかった。


理人はベンチに座って靴ひもを結んでいた。その隣に、チームメイトがドスンと腰を下ろす。


「八神、ちょっと聞きたいことがあるんだ。」


チームメイトは声をひそめて言った。


「いろいろ調べたんだけど、やっぱりお前が一番詳しいと思ってさ。」


「何だ?」


理人は頭を上げず、淡々と答えた。


大柄なチームメイトはニヤリと笑いながら続けた。


「法学部の浅見遥とは親友だろ? ちょっと聞きたいんだけど、浅見遥って彼女いるのか?」


理人の手が止まった。靴ひもを結ぶのを止めた、そのチームメイトの方に顔を向けた。


「それを知ってどうする?」


「実は、俺の友達が浅見遥のことを気に入ってるんだ。」


チームメイトは少し顔を赤らめながら続けた。


「でも、なかなか話しする機会がなくて、ちょっと試合の合間に水でも渡して、少しでも話す機会を作りたいって思ってるんだ。だから、八神、手伝ってくれないかな、少しだけでもいいから。」


理人は黙って聞いていたが、どこか不機嫌そうに見えた。


「遥は最近、恋愛するつもりはないと思う。」


「問題ない!女の子からアプローチしたら、距離もすぐに縮められるって。」


理人は無言で立ち上がり、コートの端にあるコンビニへ向かった。


後ろにいるチームメイトたちは楽しそうにからかい始めた。


「八神の彼氏に彼女を紹介するなんて、やるじゃん。」


「浮気を許すようなもんだな!」


「お前、俺に女の子を紹介してくれなかったら、今日はこのコートから出られないぞ!」


周りの男子たちは大笑いした。誰もその冗談を本気にしていなかった。皆、八神理人はノンケだってことを知っているから。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る