第3話 作戦が失敗………してない?
「か、かかか、香奈がコクられた………あの香奈が!?」
「しっ、こ、声が大きいから」
「いやだってアンタがコクられたんだよ。先生にすらとげとげしいせいで学年問わずちょっと恐れられてて友達なんてあたしくらいしかない陰キャでぼっちだけどその実、ただただ可愛いツンツン女なだけの香奈がコクられたんだよ? これが………もががっ」
「さすがにボロクソすぎでしょ、いい加減にしてっ」
ちょっとくらい騒いでくれたらなぁって思ってたけどここまでじゃなかったの。
というかここまでボロクソ言われたらさすがのわたしもちょっと傷つく。
咄嗟に立ち上がり、親友のこと悪く言ういけないお口は両手でチャックさせてもらった。
「ふ~」
「くすぐったいかりゃあぁ」
ついでに耳にふーもしてやった。
「意外と反応あるね」
「誰のせいだって思ってるのよ、もう」
自分の肩にわたしの両腕ごとナチュラルに撒きつける歩夢を尻目に、教室の様子を伺う。
本当だ、歩夢の言う通りちゃんと反応してくれてるんだ。
反応は各々違うけど概ね三つに分けられるかしらね。
歩夢ほどではないが驚愕する子、あゆ×かな推しだって挫折する子、「私、他のクラスにちょっと行ってくるね」って言ってフェードアウトする子。
最後のあれ、わたしのこといい目で見てないやつらだ………。
まあいいけど。
「気苦労が堪えませぬなあ。香奈ちゃんよ」
「誰のせいって思ってるのよ」
「いてっ」
これで上手く引っかかってくれたらいいんだけどな。
そんなことを思いながらちょうどいい位置に居た触り心地のいい歩夢の両頬を引っ張るわたしだった。
▽▼▽▼
放課後の校舎裏。
「やっぱり見立てが甘すぎたか………?」
校舎裏に一本くらい必ずあるちょっとデカい木に隠れてそうぼやく。
「わたしのバカみたいな妄想による暴走オチ確定かなこれ」
昼に言ったコクられたってことは当然嘘に決まっている。
保身って歩夢の言葉。
無意識レベルから寝取られに備えてここに進学したのかもしれないと思うと不思議とスッと胸に染み込んだ。
それに、だ。
もし夢の内容が本当に起きていたわたしの前世だった場合、わたしはずっと同じやつから寝取られていたことになる。
理由は知らないけどずっと。
だったら今回も同じところに転生してる可能性が高い。
そこでわたしがどこで告白されるのか詳細まで説明し、テンションの高い歩夢のリアクションに頼る作戦だ。
友達も結構多いしザ・陽キャって感じのあの子が大げさなリアクション。
さらにその人物のわたしは性格のせいで良くも悪くも注目の的になりやすい。
後はちょっとした面白話程度になって同じく転生したであろう寝取り野郎の耳に入ってくれれば姿を現すだろうし、今朝見た夢が夢ではなく前世だって証明する寸法だった。
咄嗟の思い付きの割には結構出来のいい作戦だって思ったんだけどねー。
やっぱり物事なんか何も思った通りに行ってくれない。
「最悪、わたしの暴走でもなんとかなるからいいけど………」
この作戦の素晴らしいところは何と恥を掻いたり傷ついたり損する人が誰もいないというところね。
「振った」なんて一言で全て片が付く。
敢えて言えばまったく存在しない空想上のコクッて来た子かな。
「もし本当に現れたりしたらなに言ったらいいんだろう?」
肝心なところのはずが完全に抜けてた。
さすがわたし、バカすぎてウケる。
よくよく考えてみれば寝取りに走ったヤツじゃなくてずっと恋人役だった子が出てくる可能性だってあるんじゃない?
そもそもの話、ただ興味本位で覗きに来る可能性だって充分考えられる。
てかこの学園に通ってる前提で立てた作戦だけど、同じ学園に通ってるなんて限れないんじゃね。
ヤバい、本格的にどうしていいかわかんなくなってきたかも。
「完璧だって思ったのに何やってんのわたし………」
見立てが甘いどころかガバガバだった件。
これでひたすら空回りするマンガ書いたら面白くてバズるのでは?
「今朝の事はただの夢ってことね、はあぁぁ」
でっかい木の後ろに隠れてから四十分くらい経つし………。
さすがに疲れてきた。
帰ろうかな。
「いたっ」
「キャッ」
いい加減デカい木から離れて帰ろうとすると、突然現れた女の子と思いっきりぶつかってしまう。
「大丈夫で、す………」
か。まで言葉が続かなかった。
肩までくるベージュ色の髪と柔らかそうな顔つき、スラっとしたモデルみたいな体形。
胸は結構大きめ、襟元のリボンからして二年生かな。
けどそんな当たり前のこともぶつかった相手を視認したことにより次第に消え失せていく。
代わりに胸の奥に湧いてくる——————生まれて初めて感じるほどの激情。
マンガやドラマなどで描写される桜舞い散る丘で芽生える儚くも甘酸っぱく、けれど手放したくないような女の子なら誰でも夢見る感情じゃない。
敢えて比較するなら——————そうだね。
強い炭の煙が肺一杯流れ込んできたような不快感かな。
家の中に絶対客として招き入れたくない虫に遭遇したような不快感。
純愛物タグ見て脳死状態で買ったマンガが実はNTR物だった時の無力感と苛立ちとも言える、かな。
そんなどす黒い感情ばかりが胸の奥で渦巻いていた。
一言で言えば遺伝子的に無理。
こいつがわたしの——————かつての恋人たちをことごとく寝取ったクズ野郎に違いない。
転生繰り返して追いかけてきた寝取り女に今度こそワカラセてやりたい みねし @shimine0603
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