第2話 本当に転生してる可能性

「大丈夫、香奈?」

「歩夢………?」


昼休み。

隣席にある恋原歩夢(こいばら あゆむ)がわたしの机に両肘付けて頬杖のつく格好で顔を突き付けてきた。


「毎回聞いてるけどそれしんどくない?」

「アンタの茶色髪のロングに可愛い顔がよく見れるからこれでいいの。横からじゃ顔なんて見れないって知ってるじゃん」

「バカなこと言わない」

「ちぇ~、本気なのにシカトされた~」


すぐぶー垂れる歩夢。


「いや本気でもないしシカトもしてでしょ」


わたしのツッコミに「また正面切っていう!?」ってたじろぐ歩夢がおかしくてついつい笑ってしまった。

長い黒髪のポニテにちょっと幼く見える顔が特徴。

この子はこの学校でほぼ唯一の親友って言ってもいいでしょうね。


こちらに入学して以来、教師にすら思ったことハッキリ言うわたしに『悩むことあるなら相談に乗ってあげる』なんて意味わからんこと言ってきてよく連れ回されてたし、感想だ寂しいだ言って夜はしょっちゅう電話している。

最初ははた迷惑だって思ったけど今はそのおかげでかけがえのない親友になったんだから感謝するところね。


「具合でも悪いんかな? 熱あるん?」

「………もう」


一つの難点と言えばちょっと心配性ってところだよね。

いつものわたしと違うって感じたら速攻で額をくっつけてくる。


「歩夢は心配しすぎ。ほら、すぐそうやって額くっつけて熱計らないの」

「でも今日はなんか変じゃん。なんだっけ、どこか上の空って感じ?」

「せんせーの指名だって二回もシカトしちゃったんだよ? そりゃあ心配するなって方がおかしいでしょ」

「だからあんなかりかりしてたわけね、なるほど」

「それ実際言っちゃうからエッグいよね~香奈は」

「ネチネチ言ってきたあっちが悪いでしょ」


人として普通のことだって思うけどなぁ。

言いたいことはハッキリ口にする、思ったこともまた然り。

授業に関することでもなんで怒った理由に関することでもないまったく関係ないことばっかりネチネチ言ってきたものだから返答するついでに「そんなヒスってたら迷惑」ってハッキリ言ったらキレられた。

こっちは思ったことそのまま言っただけなのに理不尽すぎる。


「で、なんでそんな上の空なのかお姉ちゃんに言ってみなよ。相談に乗ってあげるからさ」

「ウザい面出てきたな。誕生日、わたしが先だし妹じゃん歩夢」

「そんなこと今はどうでもいいのっ、それやめてよね? 後で恋人出来た時、それ原因で嫌われて泣いて縋ってきても知らないんだから」

「どうせ恋人できないんだからいいでしょ」


さらにここは女子校、出来るわけない。


「………?」

「どうしたの?」


そこでふとある違和感に気がつく。


「どうしてわたしって女子校にいるんだろ」

「いやワタクシに聞かれましてもよーわかりませんことよ」

「はぁ………」

「ねえツッコんでよ、バカみたいなリアクションしてるから。小粋なお嬢様口調ジョークにタメ息着かずツッコんでよ。ねえ」


空気の入れ替えのつもりなのはわかるけど歩夢、それ元ネタ知らないからどう反応していいかわかんないね。

さすがに足がしびれてきたのか机に程よくデカいケツ乗せてくる親友のことはさておき。

違和感についてちょっと深く考えてみる。


高校生になる頃、何故か無性に恋愛がしてみたくなっている自分がいた。

けど選んだ高校は男女共学ではなく女子校。

まあ、学校は同性の多いところにして時々のスパイスを求めて他校の生徒と——————なんてよく耳にする話なので当時は全く疑問に思わなかった。

けれどよくよく考えてみればそれ自体がちぐはぐすぎると言うか回りくどい。


「まああれだね、保身なのかも」

「保身?」

「そそ。女子校ってよく女の花園なんて例えられてるでしょ」

「ね。あるあるだね」

「それって他者を寄せ付けない——————性別問わずに気心許した者でない限りわたしには近づけさせないって意味も含めてるからなんじゃないかなって」


途中から自分で何言ってるのか分かんなくなったんだろうね。

話が山どころか宇宙に向かい始めたので適当に相づち打ちつつ考える。

保身って路線はまるでなかった。

なかったというか、浮かばせないようにしてた………?


「——————」


そこでとある可能性にたどり着く。

今朝の夢が本当に前世の記憶だとしたら。

それがきっかけというか呼び水となり、先ほど様々な記憶が呼び起こされたのだとしたら。


今、わたしの生きてるこの世界に——————向こうも転生しているかもしれない。

そこであるすごく天才的なアイディアが脳裏に掠めた。

これは試すしかないんだわ。


「あのね、歩夢」

「な、何? もしかしてつまんなかった?」

「何言ってるのかわかんなかったしノーコメントでいい?」

「ひどない!?」

「そんなことよりさ、さっき聞いたでしょ。どうしてわたしが上の空だったのかって」


ガーンって演出が浮かぶくらい口を開いたアホ面の親友にそのままぶつける。


「実は今朝ね、コクられたの」

「は?」

「一度断ったけど諦め切れないみたいでね。放課後さ、校舎裏に来て欲しいって頼まれて………その、初めてで頭が真っ白になっちゃった」

「はああああああああああああああああ!?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る