第4話 遺跡への道

 森を抜けた先に広がっていたのは、乾いた大地とわずかに見える草原だった。暗い森の中での出来事を思い返しながら、私はようやく深呼吸をした。魔物との戦い、そしてあのフードの男との短い会話――すべてが妙に心に引っかかっている。


「シェルカの遺跡……何が待ち受けているんだろう」


 口に出してみても答えは出ない。ただ、進むべき道ははっきりしている。遺跡はこの先の丘を越えたところにあると地図には記されていた。


◇◇◇◇◇


 日が傾き始めた頃、丘の頂上にたどり着いた。そこから見下ろした景色に、私は息を呑んだ。


「……あれがシェルカの遺跡……?」


 広大な草原の中にぽつんと佇むその建物は、灰色の石でできた大きな塔のようだった。だが、近くで見るとそれがただの塔ではないことがすぐに分かった。建物全体が無数の模様で覆われており、それらが奇妙な光を放っている。


「なんて不気味な場所……」


 一歩足を踏み入れるごとに、肌がピリピリとする感覚が広がる。この場所には確かに何かがある。私は剣の柄を握り直し、慎重に進んだ。


 遺跡の入口に到着すると、そこには重厚な扉が待ち受けていた。扉には古代文字のようなものが刻まれており、それがまるで私を試すように冷たく輝いている。


「どうやって開ければいいの……?」


 私は扉を押してみたり、剣で軽く叩いてみたりしたが、びくともしない。もしかして、この扉を開けるには特別な条件が必要なのだろうか?


 その時、背後から声が聞こえた。


「……力ずくで開けるのはお勧めしないぞ」


 驚いて振り返ると、そこにはまたあのフードの男が立っていた。


「驚いたな。こんなに早くここまで来るとは思わなかった」


 男はゆっくりと歩み寄り、私の隣に立つと扉をじっと見つめた。


「この扉には特別な魔法がかかっている。ただの力じゃ開かない」


「どうすれば開くの?」


「簡単だ。ここに書かれている文字を読み解けばいい」


 男は指先で扉の古代文字をなぞりながら説明する。その動作は驚くほど滑らかで、まるでこの場所に詳しいかのようだった。


「読めるの、それ?」


「少しだけな」


 彼の言葉を聞きながら私は複雑な気持ちになった。この男は何者なのか。そして、どうして私をここまで追ってきたのか。


 しばらくして、男が扉の中央に手を置いた。


「これで開くはずだ」


 彼が小さく呪文のような言葉をつぶやくと、扉に刻まれた模様が一斉に光り出した。そして、重々しい音を立てながら扉がゆっくりと開いていく。


「……すごい」


 私はその光景に見入ってしまった。扉の奥には薄暗い空間が広がり、冷たい空気が流れ出している。


「行くのか?」


 男が私に問いかける。


「もちろん。ここまで来たんだから」


 私は剣を握り直し、遺跡の中へと足を踏み入れた。その瞬間、背後で扉が再び閉じる音が響いた。


◇◇◇◇◇


 遺跡の内部は外観以上に異様だった。壁や天井には不自然な模様が彫られており、淡い光がそれらを浮かび上がらせている。足音が響くたびに、どこかで何かが動く気配がする。


「気をつけろ。この遺跡はただの建物じゃない」


 男の声が後ろから響く。


「知ってるよ……でも、どうしてあんたはついてくるんだ?」


だ」


 男の曖昧な返事に私は眉をひそめたが、これ以上追及する時間はなかった。目の前の廊下の奥から、不穏な音が聞こえてきたからだ。


「何かいる」


 剣を構えると、暗がりの中から複数の影が現れた。それらは人型をしていたが、動きはぎこちなく、目には光が宿っていない。


「魔物じゃない。これはゴーレムだ」


 男が淡々とつぶやく。


「ゴーレム?」


「この遺跡を守るために作られた石像の兵士だ。壊さない限り止まらない」


 私はゴーレムたちに向かって剣を振り上げた。


「なら、壊すまでだ!」


 ゴーレムたちの動きは鈍かったが、その硬さは普通の魔物以上だった。剣を叩きつけても浅い傷しかつけられない。


「もっと力を集中させろ」


 男が後ろから指示を飛ばす。その言葉に従い、剣に魔力を纏わせると、ようやくゴーレムの腕を切り落とすことができた。


 戦いは長引いたが、なんとかゴーレムたちを全て倒すことができた。


「はぁ……はぁ……」


 息を整えながら私は振り返り、男を睨んだ。


「お前、本当にただの興味でここにいるのか?」


 男は少しだけ口元を緩めた。それが笑っているのかどうかは分からない。ただ一つ確かなのは、この遺跡には私が知らない謎がまだ多く隠されているということだった。


「行こうか。道のりはまだ遠いぞ」


 男の言葉に頷き、私は剣を握り直して再び歩き出した。これから何が待ち受けているのか――それは、私自身の選択次第だった。

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