第6話 これってデート?

「――いやーほんとに助かりました冬樹ふゆき先輩。美穂みほから貰ったは良いものの、なかなか一緒に行ってくれる人がいなくて」

「……あっ、いえ……」



 それから、およそ一週間後。

 柔らかな陽光照らす小昼頃――そう、莞爾かんじとした笑顔で告げる藤島ふじしまさんに、些かたどたどしく答える僕。……いや、答えられてもないか。


 ともあれ、そんな僕らが今いるのは――近い内に閉園予定という、地元の小さなテーマパーク。……うん、僕の場違い感が半端ないね。




『――その……もし良ければ、一緒に行ってほしい場所があるのですが……』


 およそ一週間前、僕の部屋でのこと。

 僕の申し出に対し、少し控えめな様子でそう口にする藤島さん。彼女曰く――友人からテーマパークのチケットを二枚貰ったのだが、生憎その日都合が付く相手がいなくて……そこに、奇しくも例の申し出をした僕に白羽の矢が立ったというわけで。……いや、この表現は適切じゃないか。言ってみれば消去法だし。


 ともあれ、それが彼女の要望であれば僕に断る理由など皆目ない。とは言え……貰ったチケット故、当然僕も代金は支払っていない。なので、流石にこれではお返しとは……少なくとも、僕の方ではお返しとは言えないので、せめて食事諸々といった他の費用は全て僕持ちでと彼女に申し出たところ、申し訳なさそうな表情を浮かべつつも最終的には承諾してくれた。

 尤も……お返しなどという理由がなくとも、世の中大多数の男性方々は、当然の如く費用全て自分持ちでと考えるのだろうけど……まあ、そこは僕なので。


「……あの、ところで冬樹先輩」

「はい、どうかしましたか藤島さん」


 すると、ふと少し逡巡した様子でそう口にする藤島さん。いったい、どうしたのだろ――


「……その、今更ではあるのですが……これって、デートですよね?」


 ……うん、なんか急に恥ずかしくなってきたね。




「おや、あの青白い感じ……少し前の冬樹先輩にそっくりですねっ」

「……へっ? いえそんな僕なんかと一緒にしては彼らに対し甚だ失礼というもので――」

「想定外の自虐発言!? ……いや、よくよく考えれば先輩らしいか」


 それから、十数分後。

 僕の返答に、驚愕の――だけど、少しして何処か納得した表情でそう口にする藤島さん。……あれ、自虐それって僕らしいの? 


 ちなみに、その青白い彼らというのは厳密では人ではなく、人工的な死体――即ち、射撃コーナーで待ち構えるゾンビ達のことで。


 ……まあ、それはそれとして。


「ところで、意外と言っては失礼かもしれませんが……すっごく上手ですよね、藤島さん」

「ふふっ、ありがとうございます冬樹先輩。きっと、前世は凄腕の狙撃手スナイパーだったのでしょう」


 暗闇での狙撃を終え、スタート地点まで戻って来た後そんなやり取りを交わす僕ら。……いや、ほんとに上手かった。それこそ、彼女自身言っていたように、前世は凄腕の狙撃手スナイパーだったんじゃないかと本気で思ってしまうくらいに。


「ねえ、もう一回乗りましょうよ先輩! 今度は、二人で新記録樹立しちゃいましょう!」


 すると、軽いウィンクと共にそう言い放つ藤島さん。狙撃手スナイパーさながらに銃を構えるその姿が、何とも様になっている。……まあ、二人でとなると間違いなく僕が足を引っ張ることになるんだけど――


「……はい、是非とも」


 そう答えると、にこっと太陽のように輝く笑顔を見せる藤島さん。そんな彼女の反応に、僕の返答は間違っていなかったのだとホッと安堵を洩らす。


 幸いほとんど並んでいなかったので、ほどなくしてゴンドラへとライドオン――その後、五周目でどうにか目標の新記録樹立を達成……うん、やっぱり僕が完全に足引っ張ってたね。

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