第5話 健気で可愛い後輩ちゃん?
――それから、およそ二週間経て。
「――おはようございます、
「……えっと、ありがとうございます
寝ぼけ眼を擦りつつ扉を開くと、そこにはお馴染みの眩い笑顔を浮かべる美少女の姿が。まあ、これといって否定すべき部分もないのだけど……うん、こうも堂々と自分で言えちゃうのは凄いね。
「……ところで、もう何度も聞いててしつこいかもしれないですけど……本当に、大丈夫ですか? こう度々訪れていては、アルバイトの方もですが、学業の方にも大きく支障が出るのでは……」
「はい、もう何度もお答えしていますが、全然大丈夫ですよ冬樹先輩。大学の授業って、必要最低限の単位を取れる程度に出席しておけば、時間は十分に確保できますし。……それとも、やっぱり迷惑でしょうか?」
「あっ、いえ迷惑だなんて滅相もありません! 僕としては、その……本当に申し訳なくも、大変有り難く思っていて……。なので、その……藤島さんのご負担にならないのであれば、僕に異存などありません」
「……そっか、良かった。はい、負担なんて微塵もありません!」
そんな僕の返答に、心底安堵したような笑顔を見せる健気で可愛い後輩ちゃん。今しがたの会話の通り、最初の訪問以来、彼女は度々僕の部屋を訪れては食事を作ってくれている。……うん、本当に申し訳ない。
「……へえ、藤島さんは空手を習っているのですね。何だか、少し意外かもです」
「まあ、習っていると言っても大学に入学してからなので、まだ半年くらいですけどね。……えっと、腕っぷしの強い女は苦手ですか?」
「いえ、全くそんなことはありません! むしろ、凄く憧れるくらいです!」
それから、数十分後。
食卓にて――少し不安そうな藤島さんの問いに、すぐさま否定の意を示す僕。気を遣ったわけじゃない。僕自身、身体も心もひ弱だという自覚があるので、強い人には本当に憧れるわけで。
「……ふふっ、それなら良かったです。もし、先輩がピンチに陥った際は、私が先輩を護ってあげますね?」
「……えっと、ありがとうございます」
すると、ホッと安堵のような表情を浮かべた後、
「そう言えば……今まで尋ねていなかったと思うのですが、先輩ってごきょうだいはいます?」
「いえ、僕は独りっ子ですね」
「……へぇ、ちょっと意外ですね」
「……意外、でしょうか?」
「……うーん、何と言いますか……勝手ながら、私の中で冬樹先輩は面倒見の良いイメージがあるので、弟さんや妹さんがいるのかなって」
「……そう、なのですね」
引き続き美味しい食事を堪能しつつ、そんな他愛もないやり取りを交わす僕ら。……うん、何とも意外だ。まさか、こんな暗鬱でコミュ障の僕にそんなプラスイメージがあったとは。
「ところで、藤島さんにはごきょうだいがいらっしゃるのですか?」
ともあれ、珍しくこちらからも尋ねてみる。この流れで聞かないのも少し不自然な気もするし……それに、僕自身興味もあるから。
「……はい、姉が一人います。少し、歳の離れた姉が」
「……へぇ、そうなのですね」
すると、少し間があった後、仄かな微笑を浮かべ答える藤島さん。そっか、お姉さんがいるんだ。……ただ、今はそれよりも――
「……あの、どうかしましたか藤島さん」
そう、逡巡を覚えつつ問い掛ける。心做しか……お姉さんがいると告げた彼女の表情が、何処か翳りを帯びているように見受け――
「……いえ、何でもないです。ただ……本音を言えば、姉のことはあまり好きになれなくて」
「……本日も、大変美味しかったです。本当にありがとうございます、藤島さん」
「ふふっ、お粗末さまでした」
そう、頭を下げつつ感想と謝意を告げると、少し可笑しそうに微笑み答える藤島さん。お姉さんについて言及した際の、何処か翳りを帯びた彼女の様子は気掛かりなものの……だけど、やはり僕の方から詮索して良いことではないだろう。
ところで、遅ればせながら本日の献立は若鶏の照り焼きとシーザーサラダ、それから大根の味噌汁と五穀米。僕自身ではまず用意しない、大変栄養バランスの良いお食事で……うん、本当に有り難い限りです。
「……あの、藤島さん。その……何か、僕に出来ることはありますか?」
「……へっ?」
不意に尋ねた僕の問いに、少し驚いた表情で声を洩らす藤島さん。……まあ、そうなるよね。全く以て何の脈絡もなかったし。
……だけど、一応僕としてはずっと……まあ、ずっとと言っても二週間くらいだけど、ずっと考えていたことで。僕みたいな
「……そうですか。でしたら……是非とも、お願いがあるのですが――」
「…………へっ?」
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