第三節:無慈悲なる審判

締切の鐘が鳴り止んだと同時に、館内の大型スクリーンに恋愛小説の最終結果が映し出された。

辺りは緊張に包まれ、投票集計を知らせるアナウンスが機械的に響く。

数字の羅列が昇降を繰り返すなか、やがて“最下位”の欄にひとつの名前が確定される──牧瀬 穂乃果。

ダークで歪んだ恋愛ホラーを書き上げた彼女は、最後の瞬間まで得票を伸ばしきれなかった。


 「それでは、恋愛小説の結果を正式に発表します。総合最下位は……牧瀬 穂乃果。あなたには“脱落”の宣告が下されます」 


乾いたアナウンスが響き渡ると同時に、黒服のスタッフがサッと牧瀬の両腕を掴んだ。

その瞳は氷のように冷たいままで、何一つ表情を変えないまま、牧瀬を無言で引き立てていく。


 「……あら、意外と早かったわね」 


牧瀬が漏らしたかすかな声には、ほのかな諦観と苦悶が混じっていた。

誰もが息を呑む。

そのまま黒服は、彼女を引きずるように廊下の奥へと消えていく。

遠くから聞こえる靴音が次第に薄れ、やがて館内は静寂に包まれた。


 しかし、その静寂は一瞬で破られた。再びスピーカーから主催者の声が流れ出す。 


「次なるテーマは、ミステリの二択……バカミス か 本格推理。いずれかを選んで執筆していただきます。詳しい指示は後ほど」


 そこでアナウンスは唐突に切れる。

薄暗い廊下には、牧瀬が歩き去った痕跡だけが微かに残り、死を暗示するような寒々しい空気が漂う。

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