残酷な審査 - 初の脱落者
第一節:公開された作品とネットの初反応
朝の合宿所のロビーは、少し緊張したムードが漂っていた。
作品執筆と投稿を終え、作家たちの“異世界ファンタジー”がネット上に公開されたのだ。
今まさにその反応がリアルタイムに届き始め、誰もが端末の画面に釘付けになっている。
「な、なんだこれは……“文体が硬い”って言われておる……」
神代泰蔵は、苦しそうにタブレットを見つめ、若い読者の批判に立ち向かおうとしている。
「砂海(さかい)の黙示録、雰囲気はいいけど超読みにくい。歴史小説っぽい…」
コメントを見ると、「おじいちゃんの妄想劇場」「異世界モノじゃなくて昔のアラビア史っぽい」なんて辛口意見もちらほら。
「小難しい、か。ふん……」
神代の胸には怒りと失望が渦巻いていた。
彼は << 荒涼たる大地の果て、砂塵の波間に、かすかな風の啜り泣きが聞こえた…… >>という書き出しや細部の考証に自信を持っていた。
しかし、若い世代の読者にはどうも届かなかったらしい。
一方で、守屋漣はスマホに来る絶賛コメントを満喫している。
「うはっ、『オレが竜騎士? じゃあ最強設定でよろしく!』がバズってるぜ。……でも“量産型なろう系”ってツッコミも多いなぁ。」
守屋の顔にはまだ余裕が伺える。
「マジ笑ったー!主人公最強最高!」
「途中のギャグがツボにハマる!アニメ化希望!」
「いや内容が軽すぎない?似たようなの読んだことあるんだが…」
絶賛もあれば、似通った作品との比較や“定番すぎる”といった声もある。
だが総じて反応は上々。
守屋は鼻歌まじりにコメントを流し読みしつつ、ほかの作家へ勝ち誇った視線を投げる。
廊下では根岸千夏がスマホを見ながらつぶやいた。
「“設定浅いけどノリは好き”か……確かにあたしの『ギャルJK、剣と魔法の世界に放り込まれたら』は勢い任せかも……」
彼女はSNSを見ながら、少し複雑な心境にかられた。
SNSにはこんな感想も。
「#ギャルJK異世界で草!でも雑w」
「スマホ持ち込んでSNS投稿って設定は面白いけど、もっとファンタジー感欲しかったなー」
彼女は唇をかんで、こう呟く。
「ま、まだ中位あたり……かな?バズもしてるし、ギリギリ大丈夫かも……」
だが、どこか落ち着かない様子で、携帯を握りしめたまま廊下を行ったり来たりしている。
ロビーのソファでは、高森雄一が新聞をめくるフリをしながら自分のタブレットをチラ見していた。
「『勇者と宝珠の大冒険』ね…、地味だったかな。」
画面には、「無難でいいかも」「子供でも読める」という軽い褒め言葉も見えるけれど、「新鮮味がない」「先が読めちゃう」という声もあり、眉をひそめていた。
「まあ、上位には届かないかな……でも最下位は免れるだろ。たぶん……」
そうつぶやきつつも、不安げに眉をひそめる。
月代祐紀はパソコンで自作の評価をチェックしつつ、こぼした。
「“転生領主の孤独な夜明け”は繊細で深みがある……だって。よかった……」
安堵の笑みを浮かべるが、同時に見つけてしまう別のコメントに目を曇らせる。
「地味すぎ」
「バトルシーン少なくて眠い」
「もっとファンタジー要素を期待してた」
彼女は文学的な部分は評価する人も多い。
しかし派手な展開を好む読者にはウケが悪いようだ。
「まあ、想定内。専門家は高く評価してくれているみたいだし、最下位にはならないはず……」
そう自分を奮い立たせながら、月代は落ち着いた瞳で画面を見つめる。
牧瀬穂乃果はスマホを持つ手に少し力が入る。
彼女の作品『血塗れの転生劇~闇に囚われし邪神~』には、
「これってファンタジーなの?」
「グロすぎ」
「怖すぎる」
「ダークファンタジー好きには最高だけど、無理な人には無理」
という反応が多くて、なんとか納得しようと「私の作風はホラーよりだからね…」と自分に言い聞かせた。
周囲にはそれぞれの反応が飛び交い、合宿所はまるで巨大なネット掲示板のようだった。
「神代さんがヤバいんじゃないか?」
「いや、根岸さんも結構設定が雑って叩かれてるし……」
「守屋のは爆発してるけど、専門家ウケが悪そう」
互いが互いのコメントを探り、ランキングに神経を尖らせる。
その時、館内に主催者の声が響いた。
「皆様、読者の反応一喜一憂しているようですね。だが、最終的な判断は読者投票と専門家講評、その合算で行われます。しばしお待ちください。」
その声に、一瞬だけみんなの緊張が和らいだ。
でも心の中では、どうしても"デスゲーム"で最下位にはなりたくないという思いが続いている。
「なぜわしが、こんなにみっともない扱いを……」と神代がつぶやけば、守屋は「ネット投票でトップ取っちゃうかもね」と余裕の笑みを浮かべ、根岸は「バズってるけど、専門家の評価が怖い…」と不安を口に出す。
高森は心の中で地味すぎる仕上がりを悔やみ、月代は「文学性こそ私の武器」と、わずかに胸を張り、牧瀬は自分のダークすぎる作風が票を失う可能性に青ざめていた。
審査結果がじりじりと迫ってくる中、作家たちはどうか最下位にならないようにそっと祈っていた。
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