第四節:投稿・締切の鐘
作家たちは、迫る締切に追われ、時間の重圧を肌で感じていた。
夜はすでに深まり、合宿所の廊下にはキーボードをたたく音や、沈黙を破るため息が響いていた。まさに、小説投稿の修羅場だ。
「ちくしょう、もう少しなのに!」
守屋漣が机の前でイライラを爆発させる。髪をぐしゃっと掻きながら、「この回線、急に遅くない?俺のラストバトル、お預けってか!」と言い訳がましく叫ぶ。
傍らのノートパソコンには煌びやかなタイトルが表示されているが、アップロードが進まない様子。
根岸千夏がスマートフォンを握りしめて現れる。
「わかるよ、そのもどかしさ!ギャルJKの活躍を止めないでほしいって思うけど、完全に詰まっちゃってる。」と、苛立ちを共有する。
彼女のスマホも読み込み中を示したままだ。
一方、月代祐紀は自分の作品にまだ納得しきれずに苦悩する。
「もっとこの領主の物語を深く描きたいんだけど、これ以上煮詰められないかもしれない。」と、異世界ドラマの方向性に葛藤を抱えていた。
ネットの不調に対する他の作家たちの不平は、彼女の不安に拍車をかける。
高森雄一は少しのどかに口を開く。
「王道の冒険ものねぇ……地味かも知れないけど、これで行くしかないよな。」
冒頭の一文を見つめ、その選択に少し疑問を抱きながらも、ネットが止まっている現状に焦りが増幅している。
異なるスタンスを持つ神代泰蔵も、ネットの不安定さに憤慨している。
「なんだこの回線不良は……、わしの『砂海の黙示録』がこんなところで止まるなど……」とぼやいていた。
早く自分の渾身の作をアップロードし、他の作家との格の差を見せつけてやりたい衝動にかられていた。
そして、牧瀬穂乃果の様子は絶望に満ちている。
「この呪われた回線、どうにかしてよ……」
画面に躍るのは << 夜空が呪われた月の色に染まるとき、生贄の鼓動が最後の拍動を刻む── >>
転生ファンタジーというよりホラー色が強すぎる展開だが、彼女なりにギリギリまで加筆修正をした。
今さら路線変更しても間に合わない。ネットが不調ならば手も足も出ない。
その時、天井から不気味なアナウンスが。この声がさらに焦りを炊きつける。
「締切まで残り30分。適切に投稿なさってください。さもなくば……」
各部屋のモニターが一瞬チラつき、通信速度が奇妙に乱高下する。
作家たちは恐怖と焦りに顔を強張らせた。
そこへ不意に、通信速度が一気に回復し、投稿画面が正常に表示され始めた。
突然の通信回復に作家たちは驚きつつ、必死でパソコンやスマホに向かう。
「よし、行ける!」と、守屋や他の作家たちが一斉に叫び、流れていく時間の中で、ついに送信ボタンを押す。
ようやく安堵の時が訪れるが、それと同時に新たな不安も浮上する。
「このまま行けるのか……?」と、自らの作品についての不安が各人の心をよぎる。投票結果や講評が待ち構えた未来を思うと、その先にどんな評価があるのかを考えざるを得ない。
夜が明ける頃、作家たちはロビーに集まる。
「全員が締切に間に合いました。次は評価は読者投票と専門家による講評にて行います。結果が出るまで数日かかります。皆様はその間、ここで待機をお願いします。」と主催者の声が響く。彼らの表情には安堵と緊張が交錯する。冷たいスピーカーの声が消えると、天井の監視カメラが無言で赤いランプを瞬かせることに気づいた者たちも、部屋へと戻る。
次の挑戦までの猶予がある中で、作家たちは自作の行く末に思いを馳せた。これがどこへ続くのか、誰も確信を持っては話せなかった。狭間の夜が続く。
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