最初のテーマ - 異世界ファンタジー
第一節:テーマ発表と作家たちの反応
翌朝、部屋はまだ薄暗く、昨晩の豪華なパーティーの余韻が微かに残っていた。
作家たちが集まった部屋は、まるで議論を待っているように整然と机と椅子が並べられ、なんとも言えない緊張感が漂っていた。
作家たちはいつもの挨拶を交わす顔とは異なり、何か使命感のようなものを抱いているようだった。
「おはようございます、皆さん。」
突然、冷ややかな声がスピーカーから響いた。
これは主催者の声だ。
「昨日お話したように、今回のテーマは『異世界ファンタジー』です。」
その瞬間、ざわつきが部屋を包む。
目を見交わす人もいれば、ため息をつく人もいる。
そして、スピーカーからの声が続いた。
「締め切りは1週間後、文字数は最低1万文字。皆さんの作品はインターネットに公開され、特別審査員の評価を受けます。最下位の方には……脱落の道が待っています。」
「脱落」という重い言葉が空気を一瞬で張り詰めさせる。
「異世界ファンタジーか……」と神代泰蔵はぼそりと呟いた。
彼の顔には何とも言えない表情が浮かんでいる。
「まったく、くだらん流行に安易に乗る連中が増えるのは由々しき事態だと思っていたが、まさか自分が書くはめになるとは……。これでは私の筆の格が疑われてしまう」
一方、守屋漣は好奇心を感じたように嬉しそうだった。
「異世界ファンタジー?得意分野じゃないか!これはチャンスだ!」
まるで遊園地に来た子供のように軽やかだ。
彼はライトノベル色の強いベストセラーを量産し、派手な異世界ものを得意としている。
その守屋をちらりと見た月代祐紀は、不安げな声で言った。
「……私、正直言って得意じゃないのよね。転生だの魔法だの、設定を組み立てるのが苦手というか。けど、やるしかないわね。」
芥川賞を受賞した月代にとって、これは簡単な挑戦ではない。
しかし、挑戦する姿勢を見せている。
「よっしゃあ!」根岸千夏は自信満々に言った。
「いや、これ勝ち確かも。JK主人公で、SNSノリの異世界物……超映えるし、ウケるに決まってるじゃん!」
彼女はポップなテイストを全開にして執筆すれば若年層の票を集められると信じているらしい。
ホラー作品で知られる牧瀬穂乃果は、どう進めるか考え込んでいた。
「異世界って、どこまで自由にやっていいのかしら。でも、私が書くと、どうしても血とか……暗い方向に寄っちゃいそうで。」
彼女はホラーやエログロが専門であり、今回のテーマと相性がいいのか悪いのか、今ひとつ判断がつかないようだ。
気づけば彼女の爪先が小さく震えていた。
そんな彼女を見て、高森雄一は肩をすくめて言った。
「とりあえずは王道の冒険ものでも書きましょうかね。まあ、大衆娯楽がウリなんで……。ただ差別化が難しそうなんですよ。読者もたくさんの異世界ファンタジーを読んでいるだろうし、僕ごときがどこまで受けるやら」
実績のある大衆娯楽作家だが、今の時代でヒットを狙うにはインパクトが必要だとわかっている。
だが、冒険一辺倒では印象に残らないかもしれない。
やがて、主催者の声がまた冷ややかに響いた。
「スタイルは自由です。ただし、ルールと締切は必ず守ってください。違反者にはペナルティがございます。」
守屋は根岸にウインクを送りつつ、二人は何やら計画を立てている様子。
「バズらせたらこっちのもんだよ。」と根岸が小声で言うと、月代は考え込む。
「……幻想世界を舞台に、人間の内面をじっくり描けば読み応えは出せるかもしれない。だが、ネットの投票……難しいわ。」
神代は冷ややかに周囲を見渡し、薄く笑みを浮かべた。
「異世界と言うが、所詮は子ども騙しの空想話だろう。果たして本当の文学的価値を持つのかね。」
その言い方に、若手の守屋と根岸が険しい顔をする。
だが、ここで衝突しても得はないと察したのか、どちらも黙って視線をそらした。
主催者は冷静に指示を続けた。
「では、執筆を始めてください。違反や遅刻は脱落とみなしますので、ぜひ全力を尽くして下さい」
資料には詳細な指示が詰まっていて、彼らはそれぞれ自分の未来に直面していることを改めて感じた。
守屋と根岸は小声で「あのテンプレ展開ならウケる」「SNSで好印象を狙える」と相談し、月代は静かに思索に沈んでいた。
神代は資料を机に叩きつけ、牧瀬は暗いまなざしでただ手元のメモを睨み、高森は淡々と“王道ファンタジー”のプロットを練り続けていた。
こうして、異世界ファンタジーというテーマに挑む作家たち。
それぞれの思いを胸に、誰が勝ち抜くのかはまだわからない。
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