第四節:絶望と緊迫感

シャンデリアの灯りが次第に暗くなり、部屋全体が深い影に包まれた。

その中で、黒い服をまとった警備員たちが無言で立ち上がり、作家たちを取り囲んだ。

誰一人、武装した彼らの前で言葉を発することができず、

部屋に緊張感が漂った。


「ここから先、自由に出入りできるという考えはお捨て下さい。敷地のすべての出口には施錠がされ、外周には電気柵が張り巡らされております。逃げようとすればどうなるか……理解しただけましたでしょうか?」


その声が響くと、作家たちは体を硬直させたまま主催者の声に動じていた。

神代 泰蔵は顔に滲む汗を手で拭い、眉間にしわを寄せて小さくつぶやいた。

「ここまできたら、冗談ではすまされないな……。この茶番に付き合うなんて、私の名に関わるが……」言いながら、彼の目には不安がこぼれ落ちている。


月代 祐紀は、顔を強ばらせながら、テーブルの端をぐっと握り締めた。

「電気柵に銃なんて……本当にここから逃げられないの? 意味がわからない……」

その声は微かに震え、彼女は言葉を一時止めた。

文学の舞台で実績を積んできた彼女にとって、このような極端な状況は初めての経験だ。


隣の守屋 漣は、なんとか笑おうとしていたが、その努力はむなしいものであった。

「しかしまあ、勝てば金と名声が手に入るって話だったよね? ここで尻尾を巻くのも惜しいっていうか……まあ、もう帰れないけど」

その軽口に、根岸 千夏は数回瞬きをする。

「あたしも……そう思っちゃうかも。ただ閉じ込められるだけじゃないなら、書いて勝つ以外にないでしょう? 正直、フォロワー増やす最高のチャンスでもあるし。SNSも使えないけどね……」


彼女の口調とは裏腹に、その肩はこわばっていた。

スマホを持てない不安と、目の前の危険への恐怖が混じっているようだ。

静かにしていた牧瀬 穂乃果は、一通りの会話を耳にしながらも顔を上げ、武装した警備員たちを無言で凝視した。

「あんな物、本当に使うつもりなの。小説の中の方がまだ情け深いわね」と、彼女はつぶやいた。

現実の恐怖がホラーの女王をも黙らせている。


高森 雄一は不安を隠せず、周囲をきょろきょろと見回していた。

「もし逃げようとしたら……撃たれるって、本当にそうなるんですか? 冗談であってほしいけど、やりすぎですよね」

彼の言葉に、主催者の声が重なった。

「皆様にはこれが現実だと何度か伝えております。あなた方はこのデスゲームに参加することを選ばれたはずです」

不快な笑いと共に、黒服たちは作家たちをじっと見守り続ける。


神代は拳を強く握りしめたものの、声に出す勇気はなかった。

部屋の片隅には監視カメラが赤く光り、どこかに映像が送られているのかもしれない。

その狡猾な計画を前に、抵抗などできない。


「ここから逃げ出すことは不可能でございます。逃げれば報いが待っております。しかし勝てば名声と報酬が得られます。作家にとっては最高の舞台でございましょう?」

主催者の意志の固い声が部屋を包み、誰一人として動けなかった。


「では、最初のテーマを発表いたします。“異世界ファンタジー”です。詳細は後ほどお伝えしますが、どんな作品が生まれるか、楽しみにいたします。」


その言葉に、守屋は目を輝かせた。

「異世界ファンタジーか、得意分野じゃん」と嬉しそうに口にしたが、月代は頭を抱えた。

「……畑違いだけど、やるしかないのか。命がかかっているのなら」


重苦しい沈黙が部屋中に漂い、誰も手を動かすことができなかった。

豪勢な料理さえ手にとる者はいない。根岸はため息と共に膝を揺らす。

「ファンタジー……スマホが使えない世界なんて想像したくないけど……書くしかない、よね」

彼らは、押し寄せるデスゲームの現実を前にしながら、必死に生き延びる道を模索していた。


豪華な宴は、いつの間にか地獄への扉に変わっていた。

電気柵、銃、閉ざされた扉。誰もそれに対抗する術を持たず、諦めの中で席に戻る。誰かが静かに嗚咽を堪えていた。

主催者は歪んだ笑顔のまま、スクリーンの光を落とした。

今やこの館は、名高い作家たちを閉じ込め、過酷な“創作の戦場”へと姿を変えようとしていた。


作家たちは膝の上で手を固く握りしめ、心を決める。

ここで勝たない限り、生き延びることはできない。

その現実の重圧が彼らの胸に迫ってくる。

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